人間オークション ~100億の絆~
「では、且功さん、皆さまごきげんよう。」
「……やっと帰られましたね、麗亜様。」
あれから理想の結婚式だの結婚後のことなどを4時間も聞かされた。僕にとっては婚約なんてどうでもいいものだ。この婚約に恋愛感情などない。ただの家のための政略結婚なんだから。
「さすがにそろそろ命(みこと)も落ち着いただろ。様子を見に行くか。」
2階へあがり僕の部屋のドアを開ける。するとそこには信じられない情景が広がっていた。
「命(みこと)はどこだ…?」
部屋は散らかってはいないが窓が開いている。だが僕は普段窓を開けることは滅多にない。
まさか、命(みこと)が窓から…逃げたのか……?
「……勝手に逃げたんですかね…まあ処分する手間が省けていいですが。」
「おい、今なんて言った…?」
僕の言葉に慌てて口元を押さえる咲月。処分ってどういうことだ。
まさか今までの行方不明な女たちも関係があることなのか……?
そういえば……
「僕はいつも、麗亜の前に出したときや玩具が暴れ出した時、お前に玩具を部屋に連れていくよう命(めい)じていた。僕は手間が省けるからお前に頼んでいたが、玩具たちが行方不明になったのはいつもその後だった。逃げ出したくらいにしか思っていなかったが、本当は咲月、お前が処分をして俺から遠ざけていたのか……?」
「……ああ、そうだよ。だって、且功が持ってくる女たちは礼儀もなく低俗でどう考えても如月家の恥にしかならないから。俺にとっての且功は完璧な跡取りだ。且功を、如月の名を汚すような奴はこの家には要らない。」
「じゃあ、もし命(みこと)が逃げ出していなくてもお前は追い出す気でいたんだな。」
「……まさか自力で逃げだすなんてね、俺もビックリ――」
ドゴッ
咲月がそこまで言ったとき僕の中の何かが切れた。我に返ると僕は咲月を殴った後だった。
「なに、あの女そんなに大事だったわけ?」
「僕の…僕だけのたった1人の玩具だったんだ。僕が欲しくて買った僕だけの……。」
「じゃあ迎えにでも行けば?でも、そんなことをしたら御当主様はどう思う?如月の名に泥を塗ったような奴に入れ込む跡取り息子を許すと思うか?お前が生まれたときから英才教育を受け、寂しい思いをしたことは俺も知ってる。寂しさを埋めるために馬鹿な女たちを拾って来ていたんだろ?でもな、そういう余計なもののせいで家がつぶれるだなんて惨めで恥ずかしいことはねえよ。」
咲月は元々貴族の家の出身だった。でも、曾祖父が亡くなった後に家督を継げる男がいなく、咲月の家は貴族という格を取り上げられた。そんな咲月だからこそ家がつぶれてしまうことや僕のことを心配してくれているのだろう。
「なあ咲月、心配してくれるのは感謝している。でも、敷かれたレールの上を歩くだけの人生で楽しいか?」
「は…?」
「僕は与えられたものは皆が当たり前にもらえるものだと思っていた。でも、命(みこと)を見ていると思うんだ。自分は恵まれているんだ。与えられることを当たり前に思っていたんだって。だけど不自由のない生活ができる僕たちみたいな人間がいるなら命(みこと)たちみたいに何もかも自分でやって家も家族もいないような人間もいるんだって。贅沢な暮らしと貧しい暮らし。どっちが幸せかを聞かれたら前者と答える人間が多いと思う。でも僕は後者の方が大変なことが多くても自分のために生きていて幸せなんだって思うことがある。」
そうだ、僕はきっとオークションで啖呵を切った命(みこと)を見たときに揺さぶられたんだ。自分の意志を自分の言葉で伝え、誰にも決めさせない、自分の心を持っている命(みこと)を。
「咲月、今回のことは見逃すが今後命(みこと)に何かしたらいくらお前でも許さない。」
「……まあ、俺としては不服でしかないけど雇ってもらってる身だからそれが命令なら従うよ。」
「僕はこれから命(みこと)を探してくる。金も持っていないだろうしそもそも如月家の敷地から出ることも難しいだろうからすぐ見つかるだろう。お前は風呂と着替え、食事の用意をしていろ。」
やっと見つけた僕の玩具。絶対に誰にも渡さないし逃しもしない。
だから、また戻ってきてくれ、命(みこと)。
「……やっと帰られましたね、麗亜様。」
あれから理想の結婚式だの結婚後のことなどを4時間も聞かされた。僕にとっては婚約なんてどうでもいいものだ。この婚約に恋愛感情などない。ただの家のための政略結婚なんだから。
「さすがにそろそろ命(みこと)も落ち着いただろ。様子を見に行くか。」
2階へあがり僕の部屋のドアを開ける。するとそこには信じられない情景が広がっていた。
「命(みこと)はどこだ…?」
部屋は散らかってはいないが窓が開いている。だが僕は普段窓を開けることは滅多にない。
まさか、命(みこと)が窓から…逃げたのか……?
「……勝手に逃げたんですかね…まあ処分する手間が省けていいですが。」
「おい、今なんて言った…?」
僕の言葉に慌てて口元を押さえる咲月。処分ってどういうことだ。
まさか今までの行方不明な女たちも関係があることなのか……?
そういえば……
「僕はいつも、麗亜の前に出したときや玩具が暴れ出した時、お前に玩具を部屋に連れていくよう命(めい)じていた。僕は手間が省けるからお前に頼んでいたが、玩具たちが行方不明になったのはいつもその後だった。逃げ出したくらいにしか思っていなかったが、本当は咲月、お前が処分をして俺から遠ざけていたのか……?」
「……ああ、そうだよ。だって、且功が持ってくる女たちは礼儀もなく低俗でどう考えても如月家の恥にしかならないから。俺にとっての且功は完璧な跡取りだ。且功を、如月の名を汚すような奴はこの家には要らない。」
「じゃあ、もし命(みこと)が逃げ出していなくてもお前は追い出す気でいたんだな。」
「……まさか自力で逃げだすなんてね、俺もビックリ――」
ドゴッ
咲月がそこまで言ったとき僕の中の何かが切れた。我に返ると僕は咲月を殴った後だった。
「なに、あの女そんなに大事だったわけ?」
「僕の…僕だけのたった1人の玩具だったんだ。僕が欲しくて買った僕だけの……。」
「じゃあ迎えにでも行けば?でも、そんなことをしたら御当主様はどう思う?如月の名に泥を塗ったような奴に入れ込む跡取り息子を許すと思うか?お前が生まれたときから英才教育を受け、寂しい思いをしたことは俺も知ってる。寂しさを埋めるために馬鹿な女たちを拾って来ていたんだろ?でもな、そういう余計なもののせいで家がつぶれるだなんて惨めで恥ずかしいことはねえよ。」
咲月は元々貴族の家の出身だった。でも、曾祖父が亡くなった後に家督を継げる男がいなく、咲月の家は貴族という格を取り上げられた。そんな咲月だからこそ家がつぶれてしまうことや僕のことを心配してくれているのだろう。
「なあ咲月、心配してくれるのは感謝している。でも、敷かれたレールの上を歩くだけの人生で楽しいか?」
「は…?」
「僕は与えられたものは皆が当たり前にもらえるものだと思っていた。でも、命(みこと)を見ていると思うんだ。自分は恵まれているんだ。与えられることを当たり前に思っていたんだって。だけど不自由のない生活ができる僕たちみたいな人間がいるなら命(みこと)たちみたいに何もかも自分でやって家も家族もいないような人間もいるんだって。贅沢な暮らしと貧しい暮らし。どっちが幸せかを聞かれたら前者と答える人間が多いと思う。でも僕は後者の方が大変なことが多くても自分のために生きていて幸せなんだって思うことがある。」
そうだ、僕はきっとオークションで啖呵を切った命(みこと)を見たときに揺さぶられたんだ。自分の意志を自分の言葉で伝え、誰にも決めさせない、自分の心を持っている命(みこと)を。
「咲月、今回のことは見逃すが今後命(みこと)に何かしたらいくらお前でも許さない。」
「……まあ、俺としては不服でしかないけど雇ってもらってる身だからそれが命令なら従うよ。」
「僕はこれから命(みこと)を探してくる。金も持っていないだろうしそもそも如月家の敷地から出ることも難しいだろうからすぐ見つかるだろう。お前は風呂と着替え、食事の用意をしていろ。」
やっと見つけた僕の玩具。絶対に誰にも渡さないし逃しもしない。
だから、また戻ってきてくれ、命(みこと)。