人間オークション       ~100億の絆~
―咲月side―

且功の命令でこの女に謝った。こんな屈辱的なことは家を失って以来だ。俺のことを毛嫌いしているかと思えば、今は且功の言葉に怒っている。ほんとうに馬鹿で、たかが知れたほどの知識しか持ち合わせていない貧乏人だ。

「且功、いくらなんでも今の言葉では命(みこと)…を怒らせるよ。なんせ、貧乏人にとっては食事は生きるか死ぬかを左右する大切な行為だからね。」

「そうだな。今のは言いすぎたかもしれないな……。」


俺の知っている且功は俺みたいな執事の一言で自分の言動を否定するような奴じゃなかった。もっと気高く、自分のペースを醸し出す誇り高き貴族だった。

「そんなに且功にとっては、命(みこと)は大事か?」
「何が言いたい?」

「あの女が来てから、且功変わったよ。つまらなくなった。なんで自分の言動を否定するようになった?なんで人のことを考えるようになった?」

「僕が人のことを考えている…だと。どういう意味だ。」


無意識なのかよ……無意識に変わっているのかよ。そんなの俺が許さない。お前が変わっていってしまったら俺は……俺の居場所は……


「僕は僕のペースで好きなように生きている。これまでだってそうやって生きてきた。命(みこと)に左右されているように見えるのならそれは僕が如月家にとってはまだ半人前だというだけだ。僕は生きる道は自分で選ぶ。だからお前は僕についてくればいいだけだ。」

「……それを聞いて安心したよ。俺はてっきり麗亜様との婚約を破棄して命(みこと)と将来を共にするのかって考えたからね。」



そうだ、且功はこういうやつだ。誰の色にも染まらない。そして、自分の色にしか染まらせない。自分本位で強欲で、常に人の上に立つ存在。だからこそ、俺はついて従う。今は亡き我が卯月家を救ってくれた如月家の後継者を。



「……とりあえず、食事は且功の部屋に運ぶよ。どうせあの女も部屋にいるだろ。」

「そうだな。僕の好物でも持ってこい。」
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