人間オークション       ~100億の絆~
目が覚めたとき甘い香りがした。だけど、ここがどこかなんてことを考えることもなく聞き覚えのある声が聞こえた。

「おはよう、命(みこと)ちゃん。」


私が眠っていたのは大きなベッド。そしていつも着ているパジャマじゃなくて真っ白なワンピース。


「私を……人間オークションに出すつもりですか…?」
「そんなことはしないわよ。私はね、取り戻したかったの。大切な娘を。大切な貴女を。」


たしかに人間オークションの時みたいな雑な扱いはされていない。怖いくらい優しく抱きしめられて大切に扱われている。



「この服はね、お姉ちゃんのおさがりなのよ。」

「お姉ちゃん……?」

「麗亜のおさがりなのよ。あの扉の向こうで待っているわ。ほら、お姉ちゃんって呼んであげて。」



抱きしめられて首に纏わりつく麗華さんの長い爪が私を優しく撫でる。これが本当の恐怖というものだ。




「さあ、言って。麗亜お姉ちゃんって。」
「……麗亜…お姉ちゃん……。」



私がそう言うとゆっくりとドアが開き私と同じ白いワンピースを着た麗亜さんが立っていた。


「命(みこと)……。」


そう言葉を発する麗亜さんは前に会ったときよりもすごく細くなっていて悲しげな顔をしている。


「これで本当の家族が揃ったわね。私たちは皆そっくりね。グレーの瞳、亜麻色の髪の毛……。きっと理人さんもこれで納得してくれるわ。」
「理人さんは……誰ですか…?」

「理人さんはね……神無月家当主、神無月理人。今日から貴女のお父様よ。」



このまま私は本当に神無月家の人になるの…?且功と咲月さんに何も言わずに…?


「私のこともお母様って呼んでね。命ちゃん。そうだ、命(みこと)ちゃんっていう名前も変えちゃいましょうか。私がちゃんと名付けてあげるわ。偽りの親につけられた名前なんかじゃなく可愛い貴女に似合う本当の名前を。」



≪命(みこと)、人は命(いのち)ある限り、自分の道は自分で切り拓くものなんだ≫
≪どうして?≫

≪人に頼るというのはとても簡単なことだ。だけど人に頼りきっていたら忘れてしまうんだよ。≫

≪忘れるって何を…?≫
≪自分が生きている意味を。誰が自分の人生を進めているのかを。人生というのは自分だけのものだ。他の誰にも任せてはいけない。自分自身で作り上げていくんだよ。≫

≪私の…生きている意味……?≫
≪そうだ、命(いのち)ある限り生き続けるんだ、自分を見失わないように、自分の人生を。≫




思い出した、お父さんとの数少ない会話を。私に命(いのち)の大切さを…自分の生きる意味を教えてくれたお父さんの言葉を。



「麗亜の妹だから麗奈なんてどうかしら?命(みこと)ちゃんはどんな名前が」

「私には……他の名前なんて要りません。命(いのち)ある限り……命(みこと)ある限り…生き続けるのが私の人生。この名前をくれた両親を私は誇りに思っています。たとえ血の繋がりがないとしても……本当の親じゃないのだとしても私にとって本当の家族です!だから私には貴女も新しい名前も要らない。」

「でもここに来ればなんでも手に入るのよ?欲しいものならなんでも買える。なんでも手に入るのよ。」


「私は欲しいものがあるなら自分の力で手に入れます、命(いのち)ある限り。それが私の生き方です。そして、私の今の家族は且功と咲月さん。だから貴女とは家族になりません。」


「……やっぱり命(みこと)は命(みこと)だね。」


「命(みこと)ちゃん、麗亜、2人とも何処へ行くの…?」



「私は且功と咲月さんの元へ戻ります。もう2度とここへは来ません。」

「お母様、今までお世話になりました。私はこの家を出ます。命(みこと)たちと暮らします。」

「こんなことしてタダですむと思わないことね。私の恨みは高いわよ!!!」
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