拾ったワンコは獣人でした。~イケメン獣人に求愛されて困っています。~

プロローグ

春先のまだ肌寒い、雨が降る夜のことだった。
その日、私は、仕事で帰りが遅くなり、暗い夜道を一人、傘を差しながら歩いていた。

疲れていたのだろう。

ぼうっとした頭で、足元もよく見ずに歩いていたら、何かにつまづいて転んでしまった。

「ふぎゃっ」

両手が塞がっていたので、そのまま顔面から地面にダイブする。

(ああ……オニューのコートが……)

痛みよりもまず先にそれが気になった。
というのも、思っていたより痛みを感じなかったからだ。

お腹の当たりに柔らかなものが当たっている。

何かと思い、身体を起こして見てみると、それは、一匹の大きな犬だった。

「ひやあっ……!」

驚いて、変な声を上げてしまう。
ぴくりともせず横たわっているので、死んでいるのかと思ったからだ。

「くぅ~ん…………」

犬が苦しそうに鼻を鳴らした。
どうやらまだ生きているようだ。

(どうしよう。
 私が踏んづけちゃったのかしら……)

つまづいた感覚はあったが、踏んづけた感触はなかった筈だ。
おそらく、私がここを通る前から倒れていたのだろう。

犬の身体は、全身雨で濡れていたが、出血しているような様子はない。
と言っても、毛が長いので、明るいところでよく見てみないと、分からないかもしれないが、衰弱しているように見えた。

(飼い主は……)

と、反射的に辺りを見回してみたが、この辺りは、木造のアパートが多く、こんなに大きな犬を飼えるような戸建ては見当たらない。

犬の毛を掻き分けて、首の辺りを探ってみたが、首輪も付けていない。
まさか野良ではないだろう。

(どうしよう……こんな時間に動物病院はやってないだろうし……)

そもそも、動物を飼っていないので、どこに動物病院があるのかも、調べてみなければ分からない。

でも、このままに放っておけば、確実にこの犬は死んでしまうだろう。

子供の頃に飼っていた犬のことが頭に浮かんだ。

私は、持っていた傘を畳むと、
倒れていた犬を両腕で抱えて、
そのまま自分の家へと連れて帰った。

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