敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
許嫁の反撃
父や清十郎さんからの音沙汰がないまま、月は変わって八月になった。世間はお盆期間に突入しているが、家に閉じこもっている私はあまり実感がない。
叶多くんの勤める在スペイン日本国大使館もスペインの祝日に合わせてお休みとなるので、日本のお盆休みは特に関係がなく、忙しい合間に時々電話で話す日々が続いていた。
《夏バテ?》
「そう。全然食欲がわかなくて……でも、冷たいものなら少し食べられるから、昨日はガスパチョを作ったのよ」
家にいるだけなので身の回りで大きな事件が起こることはないが、最近体が少し不調だった。とくに胃が弱っているらしく、なにも食べたくならない。
仕事ができないほどではないので、この家にあるパソコンとスマホを使って翻訳の仕事は続けていた。
《心配だな。往診をやっている医者に来てもらったらどうだ?》
「私くらいの年齢で、歩けないわけでもないのに往診なんか頼んだらお医者様だって迷惑よ。ひどくなったら自分の足で病院に行きます」
《せめてタクシーを使えよ。どこで藤間が見ているかわからない》
「八月は旅館の繁忙期よ? さすがに私に構っている暇はないでしょう」
《……美来》
楽観的な私に釘をさすような、低い声。