敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
「その後は、なりふり構わず城後叶多を誘惑しろと指示してある。八束家の使用人である彼女なら、彼も油断するだろう? 酒の力でも借りて男の本能に訴えかければ、エリート外交官は影も形も消え失せてただの雄になる。お前を裏切ってな」
なにを言っているの?
叶多くんと泉美さんの人柄を考えれば、清十郎さんの思い描くシナリオ通りに事が運ぶわけがない。
それだけふたりを信頼しているし、清十郎さんの口車に乗せられて悲劇のヒロインを演じるつもりもない。
「ふたりとも、そんな簡単に私を裏切る人じゃありません。どうしてあなたはそこまでして、私たちの邪魔をしたいんですか?」
こうまで周到な計画を練るなんて、尋常じゃない執念だ。その出どころは、きっと政略結婚で紫陽花楼を発展させたいという思いだけではない。
もっと暗く重たいなにかが、彼を突き動かしているのでは……?
「さぁな。ただ俺は……」
車窓の外、どこか遠い一点を見つめる清十郎さん。その横顔にどんな思いが溶けているのか知りたくて、ジッと彼に視線に注いでいたけれど。
「お前だけ幸せになるのは、絶対に許さない」
こちらを見据えた光のない眼差しに、心が凍り付く。
彼はどうあっても私と叶多くんの仲を壊して自分と結婚させるつもりなのだと、思い知らされただけだった