敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
泉美さんとクスクス笑い合っている途中、ふと気になって彼女の顔を覗く。
「清十郎さんの様子はどう?」
「元気にしています。ご両親に屈せず、そして八束グループの力に頼らず紫陽花楼を変えようって、従業員たちの教育からやり直すみたいです」
「そう。それはよかった」
「それで、美来様にご相談が……」
スッとエプロンのポケットに手を入れ、他の人に見えないよう、静かに中の封筒を取り出した泉美さん。
そこには【退職願】と書かれており、私はすぐに彼女の気持ちを察した。
「清十郎さんをそばで支えたいのね?」
「はい。もともとは、紫陽花楼を追い出された後、美来様の監視の意味もあり彼の指示でこの家の家政婦になりました。でも美来様や妙さんにはとてもよくしていただいて、勝手ながら家族のように思うよになっていたので……とても寂しいです」
「私もよ、泉美さん……」
もうすぐ泉美さんとお別れかと思うと、目頭が熱くなる。
だけど、彼女のいるべき場所はここじゃない。愛する人と離ればなれになるつらさなら、私もよく知っているから。