敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

 父が言っているのは、結納での一件のことだろう。あの時は周囲が敵ばかりで、言葉のあやとはいえ叶多くんも自分を『悪者』と表現していた。

 あの日から誰の目にも触れないようにマンションで暮らし、いつになったら家族に祝福されて彼と幸せになれるんだろうって、暗い気持ちになることもあった。

 だけどようやく、私たちの戦いは終わったのだ。

「いいんです。結局、美来さんをご両親から奪うことに変わりはありませんし、彼女は外交官の妻になる。彼女の都合はそっちのけで世界中を連れ回すので、いい夫とは言えません」
「それを言うなら、美来にとってきみはこの上ないヒーローだ。この子は昔から広い世界が大好きで、子どもの頃はあちこち行けない代わりに本を読み、空想の旅をしてた。大人になってからは引き留めたって聞きやしない。そうして出かけた先で、きみと出会った。これもなにかの縁だろう」

 思いがけず温かな言葉を贈られ、驚いた私と叶多くんは目を見合わせる。

「……八束社長にそう言っていただけるなんて」
「社長だなんて水臭い。お義父さんと呼べばいい」
「ありがとうございます、お義父さん」

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