敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

「あの、その、つまり……お、お揃い?」
「そう。美来とトレドでデートした思い出に」

 私の問いにサラッと答えながら、クレジットカードの暗証番号を入力して会計を進める叶多くん。

 会計が済むと、別々に包装してもらった袋のうち、バレッタの袋を「どうぞ」と私に渡した。

「でも、私たち本当の恋人じゃないのに……」
「じゃあ、いっそ本物になればいい」
「えっ?」
「次はどこへ行く? トレド大聖堂は外せないよな」

 今、とても気になる発言をしたような気がするんだけど……はぐらかされてしまった。

 私は先に店を出ようとする叶多くんの後ろ姿と手の中のバレッタとを交互に見つめ、混乱する頭を必死で落ち着かせようとするのだった。

 ゴシック様式の建物が美しいトレド大聖堂。かつては要塞だったが、現在は軍事博物館になっているアルカサル。この土地で最古の建造物であるクリスト・デ・ラルスなど、観光スポットを巡ること数時間。

 夏のスペインはまだまだ明るいが、午後六時を過ぎた頃、お腹が空いたので一旦トレドを後にして、飲食店の多いマドリードに戻ることにした。

< 34 / 220 >

この作品をシェア

pagetop