敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
駅に向かう前に川の向こうから旧市街の全景を眺められる展望台を訪れ、美しい眺望を目に焼き付ける。
また来たいな、トレド。今度はいつ来られるだろう。
「このまま今日が続けばいいのに……」
目の前の非日常的な風景に後ろ髪を引かれ、思わず呟いてしまった。
これから夜が訪れ、それから明日がやってくる。
迎えに来た清十郎さんに叶多くんとの偽りの関係を告げたら、政略結婚は回避できるかもしれない。でも、彼と恋人でいられる時間は……そこで終わりだ。
「美来」
不意に、叶多くんの優しい声が落ちてくる。
顔を上げた時には彼の顔が間近まで迫っていて、あっと思った時にはもう、お互いの唇が重なっていた。
突然のことに目を閉じることもできず、ただ熱く高鳴る鼓動を、全身で感じる。
叶多くん、どうして……? これも、お芝居の一環なの?
「……キスも初めてか?」
不慣れな私に気づいたのだろう。唇を離してすぐ、叶多くんがそっと問いかけてきた。
照れくさくて声を出すことすらでない私は、ただコクコクと首を縦に振る。
「じゃあ俺だけが、美来の唇の味を知ってるんだな」
クスッと笑った彼は、色っぽく目を細めながら私の口もとに手を伸ばし、親指で下唇をなぞる。その甘い仕草に心臓が暴れた。