敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
一分一秒でも長く
「あの……本当に、いいの?」
「こんな時間に、きみひとりを外に放り出しておくわけにいかないだろ」
呆れたように笑った叶多くんが、先に廊下の奥へ進んでいく。
ここは、叶多くんの住むマンション。昼間はエントランスまでしか入らなかったが、今は部屋の中まで招き入れてもらった。
……今夜は、ここに泊めてもらう予定なのだ。
それもこれも、ホテルの予約を失敗し今夜寝る場所がないことを、私がついさっきまで失念していたせいだ。
「お邪魔します」
サンダルのままフローリングの廊下を進み、リビングに入ったところで、叶多くんが用意してくれたスリッパに履き替えた。スペインは基本的に土足文化だけれど、家の中ではこんな風に楽な履物に変える人々も多い。
南側の大きなアーチ窓の向こうからは、マドリードの夜景が見える。緯度の高いスペインの空は午後九時頃まで明るかったが、十一時を過ぎた現在はすっかり夜の帳が下りていた。
「なにか飲む?」
赤茶色のテラコッタタイルが敷かれたダイニングキッチンから、叶多くんが私に呼び掛ける。