敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
最初に目に飛び込んできたのは、寝具がグレーで揃えられた巨大なベッドだ。普段彼がここで寝起きしているのを想像しただけでドキッとする。
壁の色は白で、カーテンやラグは黒。あまり物が置かれていないシンプルな部屋はリビングやダイニングより武骨な印象で、男性の部屋に来てしまったという実感が、今さらのようにこみ上げる。
叶多くんはベッドの向こうにある本棚に本をしまっているところで、私は照れ隠しのように「手伝うよ」と彼に駆け寄った。
「ありがとう。でもあとこれだけだから別に……」
五冊ほどの本を抱えた叶多くんがこちらを振り返る。手の中にある本のタイトルには、外交戦略、外交史、国家、安全保障などの単語が並び、思わず顔をしかめてしまった。
「難しそうな本ばかりね。私は小説や童話じゃないと読む気がしな――」
話しながら本から視線を上げると、叶多くんはなぜか私の服をジッと見たまま固まっていた。
「叶多くん?」
呼びかけて手のひらを振ってみる。
彼はハッとした後ほんのり頬を赤く染め、気まずそうに目を逸らした。
「……やっぱり、頼むことにする」
そっぽを向いたまま、本を差し出してくる叶多くん。