敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
泉美さんは小さくかぶりを振って、憂いを帯びた視線をテーブルに落とす。
好きな人と離れてしまう寂しさを現在進行形で痛いほど実感している私は、泉美さんの想いが過去のものではないと察した。
「でも、今も好きなのね?」
「……いえ。彼には別のお相手がいますから」
「そんな……」
「いいんです。そのお相手の方は強くてお綺麗で、眩しいくらい素敵な女性なので、今度こそ彼が幸せになってくれれば、それで」
泉美さんが、明るく笑う。その笑顔が無理に作られたものだとしても、相手の幸せを願って身を引くことができる彼女は、やはり優しく思いやりにあふれた女性だと思った。
自分が思うより疲れがたまっていたらしく、夜九時を過ぎると早くも眠気に襲われ、ベッドに入ることにした。
パジャマで横になる直前、叶多くんに『おやすみなさい』のひと言でも送ろうかとスマホを持つと同時に、画面が電話の着信を知らせる。
――叶多くんからだ。
マドリードの現地時間は、日本より八時間ほど遅れている。
叶多くんは今日仕事のはずだが、時間的にちょうど昼休みなのかもしれない。