敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
単純な疲労と、それから時差に振り回されたせいもあるのだろう。翌日は昼過ぎまで泥のように眠り、目覚めと共に空腹を感じたので、寝間着のワンピースのまま階下へ降りた。
キッチンにいたのは、炊事担当の家政婦である妙さん。ふくよかな体といつもニコニコした細い目が親しみやすい印象で、実際の性格もとてもおおらか。
若い頃に海外で料理を学んだ経験があるらしく料理の腕はプロ級で、今も夕食の仕込みに没頭している。バットに入れた手羽先に調味料やハーブを熱心にすり込んでおり、最後に空気が入らないようぴっちりラップをかけた。
あの肉はきっとオーブンで焼くか、油でからっと揚げるのだろう。想像しただけでお腹がぐうと鳴った。
「あら美来様、おはようございます。元気な腹時計が聞こえましたね」
妙さんがそう言って、からっと笑う。
嫌味な所がない人なので、こうしてからかわれても腹は立たない。
「おはよう妙さん。だってそのお肉、美味しそうなんだもの。今晩の夕食?」
「ええ。オリーブオイルをたっぷりかけて、じゃがいもと一緒にオーブンで焼くんです」
「聞いただけでさらにお腹が減ったわ。なにか食べられるものあるかしら?」
「美来様がそう言うと思って、ケークサレを焼いてあるんです。召し上がりますか?」