敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

《スペインでのこと、お父さんに聞いたわ。清十郎さんは黙っていてくれるそうだけれど、彼のご両親が聞いたら婚約破棄をされてもおかしくない行動よ。もうちょっと、自分の立場をわきまえなさい》
「お母さんまで……」

 呆れたような声に、落胆する。母に協力を仰ごうというのは無理な話だったようだ。

《あなたの目を覚まさせるため、お父さんが藤間さんに頼み込んで、美来の誕生日に結納ができるよう、手はずを整えているところよ。美容室も後で私が予約しておくから、いい加減に腹をくくりなさい。あなたが藤間美来になるのは、もう決定事項なの》

 反論したいのに、悔しすぎて喉が詰まったように苦しくなり、声にならなかった。

 誕生日に、結納。藤間美来になるのは決定事項。

 自分が生まれた日のお祝いをこんなに悲しく思ったのは初めてだ……。

《返事くらいしなさい。育て方を間違えたかしら?》
「……いや」
《なに? 声が小さくて聞こえないわ》
「いや……! 結納には行かない!」

 感情的になりすぎて、駄々をこねるような言い方しかできない。スマホから、母の盛大なため息が聞こえてくる。

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