敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
《美来》
「もう、放っておいて!」
叫ぶように言って、母の返事を待たずに通話を切った。
怒りと興奮で過呼吸気味になり、思わず胸を抑える。
肩を上下させながら深呼吸を繰り返す最中、ふと目の端に鮮やかな緋色の着物が目に入り、私は思わず箱を手で払うようにして遠ざけた。
「美来様」
遠慮がちに声をかけてきたのは、泉美さん。なにも聞かずに私の隣に膝をつき、背中をさすってくれる。
「自分が心から好きだと思う人と結婚したい……。ただ、そう願っているだけなのよ?」
「ええ、わかります、美来様」
「なのに、あんな悪魔みたいな男に、一生を捧げなければならないなんて」
やりきれない思いは爆発寸前で、思わず床に爪を立てる。すると、背中を撫でる泉美さんの手がぴたりと止まって、彼女がそっと私の顔を覗き込んだ。
「いっそ、日本を離れて彼のもとへ行ってしまったらどうですか? こちらにいても、美来様はつらい思いをするだけです。私や妙さんがいくら美来様の味方をしても、所詮は使用人……旦那様や藤間様たちの考えを変えるなんて、到底無理ですから」
「日本を、離れる……」