敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
小さな胸騒ぎを覚えながらも、自分の勘違いかもしれないと、他の引き出しの中をくまなく捜す。
机以外の、アクセサリーやコスメを保管しているキャビネットや小物入れ、本棚の隙間など、あるはずのない場所までひと通り捜したけれど、それでも見つからない。
焦りが募って、鼓動が不穏な音を立てる。
私はいつもの場所にしまったはずよ。それなのにどうして……。
「美来様、お支度は整いましたか?」
ノックの音がした後、泉美さんがドアの向こうから呼びかけてきた。
私はすぐに彼女を部屋に招き入れ、開けたままにしてある机の引き出しの方を示すように振り返った。
「いつもの場所に、パスポートがないの……」
「えっ?」
「誰かが隠したのよ。父か母……あるいは、清十郎さんかもしれない」
「そんな、さすがに藤間様は関係ないのでは」
家人ではない彼に、そんな芸当は無理。そう思う気持ちもわかるけれど、彼に限っては疑いの余地がある。
「あり得なくはないわ。パスワードを勝手に予想して入力し、パソコンの中身を覗き見るような人だもの」
「だとしたら、目的は……美来様を日本から逃さないため……?」
泉美さんの呟きに、思わず身震いがして両手で自分の二の腕をさする。まだ、彼の仕業と決まったわけではない。
それでも、彼が今の私を見たら高らかに笑い声をあげ、先日のように耳元で『ご愁傷様』と囁くのではないかと思えて、寒気がした。
とりあえず両親と清十郎さんにパスポートのありかを尋ねるメッセージを送ってみたが、全員知らぬ存ぜぬの一点張り。
暗い場所に一人放り出されたような心許なさが、私の中の強くて前向きな部分を、ゆっくりと着実に奪っていった。