もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
二話 ハニートラップ令嬢
「もったいないですわ!」
あたしは目の前で繰り広げられる貧乏くさいやり取りに顔をしかめた。
そこでは、この乙女ゲームの悪役令嬢が、1年生から万年筆を譲ってもらっている。
何なの?
公爵令嬢が物乞いのようじゃない。
悪役令嬢としての役目を果たさないと思ったら、やっぱりそうだったのね。
どう見ても、もったいないおばけがいる国からの転生者でしょ!
あたしは平民として長く生活してたけど、ようやく貴族の庶子だって分かってキラキラした世界に来たのよ。
しかもこの乙女ゲームの主人公!
攻略対象者たちから宝飾品をプレゼントされて、ドレスで着飾って舞踏会に行くの。
そんな夢の世界を、昔を思い出させるようなことをして台無しにしないで!
そしてちゃんとあたしをいじめなさいよ!
隣に連れてきている生徒会長のマイルズなんて、ギリギリあたしを生徒会役員の書紀だと認識している程度の好感度しかないじゃない。
本来ならもっと、親しく名前を呼び合う仲になってるはずなのに。
「ジェニファー嬢の思惑が知りたい。今度の役員会議でそれとなく聞いてみるかな」
あたしよりもマイルズの興味を引いているなんて、悪役令嬢め許しがたいわ。
あたしはマイルズの腕を、胸に当たるようにギュッと握り込む。
「あれって生徒会役員としてふさわしい行動には見えないよね? 注意するつもり?」
下から見上げ首を傾げたら、男の庇護欲をそそると知っている。
マイルズは平民出身で、貴族令嬢からの接触に不慣れだ。
だったら同じ平民出身のあたしに、親近感を抱くはず。
令息には馴れ馴れしいと怒られる所作かもしれないが、平民同士ならなんの問題もない。
そう思っていたのだが――。
「リコリス嬢、腕を離してもらいたい。生徒会役員として、適切な距離ではないと思う」
あたしの手は無情にも振り払われた。
好感度が上がってないせいで!
全部全部、あの悪役令嬢のせいなんだから!
◇◆◇
「マイルズ、おもしろいことになってるんだって?」
そう俺に声をかけてきたのは第二王子のアラスターだ。
「おもしろい? 何のことだ?」
「物を捨てようとした生徒に『もったいないですわ!』と突撃する公爵令嬢のことだよ。実物を見てきたんだろ? どうだった?」
俺は一刻前の光景を思い出す。
リコリス嬢は貧乏くさいと表現したが、気品ある公爵令嬢がいくら物を譲ってもらおうが、そこに貧しさは感じられなかった。
ただ、公爵令嬢として、どうなのかと思っただけで。
「何か考えがあっての行動だと思う。次の役員会議で聞き出せたらいいんだが」
「そうだな、マイルズにとっては大事な一年間だもんな。できることなら静かに終えたいところだろう?」
アラスターは俺の野望を知っている。
初の平民出身の宰相になることを。
そのためにも問題が起きそうならば、早めに対処したい。
「……思ったよりも難しそうだが」
「ハハッ、何だよ、もう弱気になってるのか? さてはマイルズも、リコリス嬢のハニートラップを体験したんだろ?」
「ハニートラップ?」
「やたらとオッパイをくっつけてくるあれだよ」
アラスターはニヤニヤしている。
そうか、あれはハニートラップだったのか。
「不適切な距離だとは注意した」
「ブハッ、真面目だな!」
後ろにいる護衛騎士のクリフォードの肩をバシバシ叩きながら、アラスターは苦しそうに笑っている。
そんなにおかしいことだろうか?
俺はクリフォードの顔を見たが、寡黙なこいつが顔で何かを表現するはずもなかった。
俺たちは1年生のときから一緒にいることが多かった。
第二王子の側近として、俺とクリフォードが選ばれたということだ。
こうして気兼ねなくしゃべれる相手がいると、王子だって肩肘張らず学園生活を過ごせるとの配慮だろうが、俺たちがいなくてもアラスターならば自由に学園生活を楽しんだだろう。
この三人の中で最も適応力があるのはアラスターだ。
「僕はしっかり、堪能させてもらったけどね」
ほら、ハニートラップと知ってこの対応だ。
「なぜハニートラップなどを俺にしかけるんだ?」
「分からないけど、もったいない令嬢といい、ハニートラップ令嬢といい、今年度の生徒会役員はバラエティ豊かでおもしろそうだよね」
第二王子にしておくのは惜しいほどの豪胆さだ。
すでに胃を痛くしている俺とは違う。
俺の学園での行いは、逐一宰相閣下に報告が入る。
それだけ目をかけてもらっているし、将来の宰相としてふさわしいか、見極められているのだろう。
これまでの二年間で、かなりの信頼を得ている。
この一年間でそれを失うわけにはいかない。
「衝突しそうな気配がするんだ、あの二人……」
「マイルズのそういう判断は、外れたことがないよね」
ヤレヤレと肩をすくめるアラスター。
クリフォードはご愁傷さまという目をこちらに向けた。
こいつは本当にしゃべらないが、時折、目は口ほどに物を言う。
今じゃなくていいんだ、そういうのは。
「穏便に済むよう、まずは第一回役員会議を乗り越えよう」
◇◆◇
そうして迎えた第一回役員会議で、俺はジェニファー嬢から完璧なプレゼンを受ける羽目になっていた。
「生徒会役員に任命されてからこの会議が行われるまでの間に、これだけの品を回収し換金、福祉施設へ寄付をすることができましたわ」
手元には理路整然とした資料まである。
「これは私が勝手に始めた活動ではありますが、できれば生徒会の後押しもいただいて、もっと公式に『もったいない革命』を広めていきたいと思っていますの。つきましては次のページの……」
生徒会長は俺なのだが、俺よりもよほど張り切って生徒会活動に取り組んでいるジェニファー嬢を前に、いたたまれない思いがした。
つつがなくなんて消極的な考えだった俺は、ジェニファー嬢に感化され、もっと生徒会活動に前向きになろうと思った。
そしてジェニファー嬢をイライラした目で睨みつけているリコリス嬢に、頭を痛める。
なんだか一方的に恨みを募らせているような?
ジェニファー嬢に害が及ばないよう、見張る必要があるな。
朗々と読み上げられる資料と提言に耳を傾け、俺は今後の対策を練ることとした。
あたしは目の前で繰り広げられる貧乏くさいやり取りに顔をしかめた。
そこでは、この乙女ゲームの悪役令嬢が、1年生から万年筆を譲ってもらっている。
何なの?
公爵令嬢が物乞いのようじゃない。
悪役令嬢としての役目を果たさないと思ったら、やっぱりそうだったのね。
どう見ても、もったいないおばけがいる国からの転生者でしょ!
あたしは平民として長く生活してたけど、ようやく貴族の庶子だって分かってキラキラした世界に来たのよ。
しかもこの乙女ゲームの主人公!
攻略対象者たちから宝飾品をプレゼントされて、ドレスで着飾って舞踏会に行くの。
そんな夢の世界を、昔を思い出させるようなことをして台無しにしないで!
そしてちゃんとあたしをいじめなさいよ!
隣に連れてきている生徒会長のマイルズなんて、ギリギリあたしを生徒会役員の書紀だと認識している程度の好感度しかないじゃない。
本来ならもっと、親しく名前を呼び合う仲になってるはずなのに。
「ジェニファー嬢の思惑が知りたい。今度の役員会議でそれとなく聞いてみるかな」
あたしよりもマイルズの興味を引いているなんて、悪役令嬢め許しがたいわ。
あたしはマイルズの腕を、胸に当たるようにギュッと握り込む。
「あれって生徒会役員としてふさわしい行動には見えないよね? 注意するつもり?」
下から見上げ首を傾げたら、男の庇護欲をそそると知っている。
マイルズは平民出身で、貴族令嬢からの接触に不慣れだ。
だったら同じ平民出身のあたしに、親近感を抱くはず。
令息には馴れ馴れしいと怒られる所作かもしれないが、平民同士ならなんの問題もない。
そう思っていたのだが――。
「リコリス嬢、腕を離してもらいたい。生徒会役員として、適切な距離ではないと思う」
あたしの手は無情にも振り払われた。
好感度が上がってないせいで!
全部全部、あの悪役令嬢のせいなんだから!
◇◆◇
「マイルズ、おもしろいことになってるんだって?」
そう俺に声をかけてきたのは第二王子のアラスターだ。
「おもしろい? 何のことだ?」
「物を捨てようとした生徒に『もったいないですわ!』と突撃する公爵令嬢のことだよ。実物を見てきたんだろ? どうだった?」
俺は一刻前の光景を思い出す。
リコリス嬢は貧乏くさいと表現したが、気品ある公爵令嬢がいくら物を譲ってもらおうが、そこに貧しさは感じられなかった。
ただ、公爵令嬢として、どうなのかと思っただけで。
「何か考えがあっての行動だと思う。次の役員会議で聞き出せたらいいんだが」
「そうだな、マイルズにとっては大事な一年間だもんな。できることなら静かに終えたいところだろう?」
アラスターは俺の野望を知っている。
初の平民出身の宰相になることを。
そのためにも問題が起きそうならば、早めに対処したい。
「……思ったよりも難しそうだが」
「ハハッ、何だよ、もう弱気になってるのか? さてはマイルズも、リコリス嬢のハニートラップを体験したんだろ?」
「ハニートラップ?」
「やたらとオッパイをくっつけてくるあれだよ」
アラスターはニヤニヤしている。
そうか、あれはハニートラップだったのか。
「不適切な距離だとは注意した」
「ブハッ、真面目だな!」
後ろにいる護衛騎士のクリフォードの肩をバシバシ叩きながら、アラスターは苦しそうに笑っている。
そんなにおかしいことだろうか?
俺はクリフォードの顔を見たが、寡黙なこいつが顔で何かを表現するはずもなかった。
俺たちは1年生のときから一緒にいることが多かった。
第二王子の側近として、俺とクリフォードが選ばれたということだ。
こうして気兼ねなくしゃべれる相手がいると、王子だって肩肘張らず学園生活を過ごせるとの配慮だろうが、俺たちがいなくてもアラスターならば自由に学園生活を楽しんだだろう。
この三人の中で最も適応力があるのはアラスターだ。
「僕はしっかり、堪能させてもらったけどね」
ほら、ハニートラップと知ってこの対応だ。
「なぜハニートラップなどを俺にしかけるんだ?」
「分からないけど、もったいない令嬢といい、ハニートラップ令嬢といい、今年度の生徒会役員はバラエティ豊かでおもしろそうだよね」
第二王子にしておくのは惜しいほどの豪胆さだ。
すでに胃を痛くしている俺とは違う。
俺の学園での行いは、逐一宰相閣下に報告が入る。
それだけ目をかけてもらっているし、将来の宰相としてふさわしいか、見極められているのだろう。
これまでの二年間で、かなりの信頼を得ている。
この一年間でそれを失うわけにはいかない。
「衝突しそうな気配がするんだ、あの二人……」
「マイルズのそういう判断は、外れたことがないよね」
ヤレヤレと肩をすくめるアラスター。
クリフォードはご愁傷さまという目をこちらに向けた。
こいつは本当にしゃべらないが、時折、目は口ほどに物を言う。
今じゃなくていいんだ、そういうのは。
「穏便に済むよう、まずは第一回役員会議を乗り越えよう」
◇◆◇
そうして迎えた第一回役員会議で、俺はジェニファー嬢から完璧なプレゼンを受ける羽目になっていた。
「生徒会役員に任命されてからこの会議が行われるまでの間に、これだけの品を回収し換金、福祉施設へ寄付をすることができましたわ」
手元には理路整然とした資料まである。
「これは私が勝手に始めた活動ではありますが、できれば生徒会の後押しもいただいて、もっと公式に『もったいない革命』を広めていきたいと思っていますの。つきましては次のページの……」
生徒会長は俺なのだが、俺よりもよほど張り切って生徒会活動に取り組んでいるジェニファー嬢を前に、いたたまれない思いがした。
つつがなくなんて消極的な考えだった俺は、ジェニファー嬢に感化され、もっと生徒会活動に前向きになろうと思った。
そしてジェニファー嬢をイライラした目で睨みつけているリコリス嬢に、頭を痛める。
なんだか一方的に恨みを募らせているような?
ジェニファー嬢に害が及ばないよう、見張る必要があるな。
朗々と読み上げられる資料と提言に耳を傾け、俺は今後の対策を練ることとした。