もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
三話 動き出す『もったいない革命』
生徒会の顧問を引き受けることになったベネディクトは困惑していた。
第一回役員会議の開催を前に、ハンフリーズ公爵家のジェニファー嬢に相談を受けていたからだ。
「ですので、私の『もったいない革命』にぜひとも先生からの賛同を得られたらと思っておりますの」
私の実家も同じ公爵家なので、なんら引け目を感じるはずはないのだが、どうしたことか先ほどからジェニファー嬢に押されまくっている。
こんなに圧のある令嬢だっただろうか?
顔はきつめだが美しく、高貴なオーラを常にまとっていたはずだ。
それが誰かのために自ら動こうとしている。
学園長である父親に言われてしぶしぶ教師をしていた私は、うっかり担うことになった生徒会顧問という肩書にうんざりしていた。
きっと令息令嬢たちの上辺だけの自治活動に、引率として子守り的な役割をするのだろうと思っていた。
ところがふたを開けてみると、ジェニファー嬢はきちんと資料を揃え、なんともう実践までしているという。
私は自分がいかに生徒たちを下に見ていたのかを思い知らされた。
そして教師も生徒とともに成長できるのだと考え直した。
「素晴らしい案だと思います。今日の役員会議では最後に取り上げましょう。そのほうが印象に残りますからね」
実際、ジェニファー嬢の『もったいない革命』は理にかなっていた。
富裕層の多いこの学園では、まだ使えるものも捨てられる。
だが平民にとってはどれも高級品。
中古でも欲しいと思う者はいる。
どんな伝手を使ったのか、ジェニファー嬢は換金まで済ませ、それを孤児院や施療院などの福祉施設へ学園の名前で寄付したという。
役員に任命されてからまだ日は浅い。
しかし確実に活動の輪は広がり、わざわざジェニファー嬢のところまで使わなくなった品を持参する生徒もいるという。
第二王子の婚約者になってもおかしくないほどの地位と美貌、そして教養を兼ね備えた一目置かれる令嬢に、そういうきっかけで話しかけたい生徒もいるのかもしれない。
ジェニファー嬢が旗印となって動くことで、この活動はますます勢いを見せるだろう。
「今後が楽しみですね」
私がそう言うと、ジェニファー嬢はその笑みを深くした。
「そう言っていただけると思って、次の案を考えてありますの。『もったいない声掛け』に続く第二弾は、『もったいない制服』ですのよ」
なんと。
『もったいない革命』には二の矢が用意されていた。
私は会議が始まる時間まで、ジェニファー嬢から『もったいない制服』の説明を受けたのだった。
◇◆◇
「平民の特待生だけでなく、貴族の中にも困っている方がいると聞き及びましたわ。たしかにこの学園の制服はすべてオーダーメイド、比較的高価ですわよね」
ジェニファーは資料のページをめくりながら、役員へプレゼンを続ける。
「ですが、卒業生のみなさんから制服を譲っていただき仕立て直しをすれば、一から作るよりはるかに安価に済みますわ。洗い替えを持たない特待生や、弟や妹の制服のオーダーが金銭的に苦しい貴族の方へ、融通できる仕組みを作りたいと思っていますの」
『もったいない制服』は、いわばお下がり。
裕福な貴族にとってはお下がりを着るなんて思いもよらないことだろう。
しかし、お下がりでもいいから制服が欲しい層は存在する。
貴族というのは体面をことさら気にするから、なかなか自らの懐具合をさらけだすことはしない。
だが、『もったいない声掛け』を行う中で、こっそりと事情を打ち明けてくれた方たちがいた。
その方たちは使える物を捨ててしまう習慣にもどかしさを覚えていたのだという。
最後まで大事に使う習慣が、少しでも広まって欲しいと『もったいない革命』に賛同し、今では活動の協力をしてくれている。
私が「もったいないですわ!」と声掛けをすることで、捨てることを思い直す生徒も確かにいるのだ。
それでも捨てる選択をする生徒からは、寄付金の基としてありがたく回収させてもらっているが。
アラスターが挙手をする。
質問があるのだろう。
ベネディクトが質問を許可し、アラスターは立ち上がって私に向き直った。
「制服がオーダーメイドなのは、ひとりひとりの体格が違うからだよね? 仕立て直すにしてもあまりにサイズが異なれば、難しいと思うんだけど?」
「その通りですわ。ですので制服を集めた後、大まかにサイズ分けをしようと思っていますの。そして試着室を用意して、なるべくご自身に合う制服を選んで持ち帰っていただこうと考えています」
「ということは、それなりの数の制服が集まった方がいいということ?」
「そうなんです。ご協力いただけますかしら?」
ジェニファーはアラスターに意味深な微笑みを送る。
ぎょっとした顔をしたアラスターだが、すぐにその意味を理解した。
「つまり、僕が声をかけて回れってことかな?」
「ご明察ですわね。こういうのは一番高位な方が適役なのです。王子殿下からのお願いを、断れる貴族はいませんでしょう?」
「まいったよ、君にかかれば僕も都合のいい駒になるしかないんだね」
アラスターは席に着きながらも、嫌そうな顔ではない。
「ジェニファー嬢の提言について、これ以上の質問がなければ採決をとります。賛成であれば挙手をお願いします」
ベネディクトの声に、マイルズとアラスターは手を挙げた。
リコリスはずっと私を睨みつけるばかりで、多分、話は聞いていなかったと思う。
そうね、あなたの頭は恋愛のために使わないとね。
『もったいない革命』に巻き込むのはマイルズとアラスターとベネディクトだけで十分よ。
彼らはあなたの攻略対象者たちだとは思うけど、生徒会活動のときだけは貸してちょうだいね。
ジェニファーはリコリスにもニッコリしてみせた。
第一回役員会議の開催を前に、ハンフリーズ公爵家のジェニファー嬢に相談を受けていたからだ。
「ですので、私の『もったいない革命』にぜひとも先生からの賛同を得られたらと思っておりますの」
私の実家も同じ公爵家なので、なんら引け目を感じるはずはないのだが、どうしたことか先ほどからジェニファー嬢に押されまくっている。
こんなに圧のある令嬢だっただろうか?
顔はきつめだが美しく、高貴なオーラを常にまとっていたはずだ。
それが誰かのために自ら動こうとしている。
学園長である父親に言われてしぶしぶ教師をしていた私は、うっかり担うことになった生徒会顧問という肩書にうんざりしていた。
きっと令息令嬢たちの上辺だけの自治活動に、引率として子守り的な役割をするのだろうと思っていた。
ところがふたを開けてみると、ジェニファー嬢はきちんと資料を揃え、なんともう実践までしているという。
私は自分がいかに生徒たちを下に見ていたのかを思い知らされた。
そして教師も生徒とともに成長できるのだと考え直した。
「素晴らしい案だと思います。今日の役員会議では最後に取り上げましょう。そのほうが印象に残りますからね」
実際、ジェニファー嬢の『もったいない革命』は理にかなっていた。
富裕層の多いこの学園では、まだ使えるものも捨てられる。
だが平民にとってはどれも高級品。
中古でも欲しいと思う者はいる。
どんな伝手を使ったのか、ジェニファー嬢は換金まで済ませ、それを孤児院や施療院などの福祉施設へ学園の名前で寄付したという。
役員に任命されてからまだ日は浅い。
しかし確実に活動の輪は広がり、わざわざジェニファー嬢のところまで使わなくなった品を持参する生徒もいるという。
第二王子の婚約者になってもおかしくないほどの地位と美貌、そして教養を兼ね備えた一目置かれる令嬢に、そういうきっかけで話しかけたい生徒もいるのかもしれない。
ジェニファー嬢が旗印となって動くことで、この活動はますます勢いを見せるだろう。
「今後が楽しみですね」
私がそう言うと、ジェニファー嬢はその笑みを深くした。
「そう言っていただけると思って、次の案を考えてありますの。『もったいない声掛け』に続く第二弾は、『もったいない制服』ですのよ」
なんと。
『もったいない革命』には二の矢が用意されていた。
私は会議が始まる時間まで、ジェニファー嬢から『もったいない制服』の説明を受けたのだった。
◇◆◇
「平民の特待生だけでなく、貴族の中にも困っている方がいると聞き及びましたわ。たしかにこの学園の制服はすべてオーダーメイド、比較的高価ですわよね」
ジェニファーは資料のページをめくりながら、役員へプレゼンを続ける。
「ですが、卒業生のみなさんから制服を譲っていただき仕立て直しをすれば、一から作るよりはるかに安価に済みますわ。洗い替えを持たない特待生や、弟や妹の制服のオーダーが金銭的に苦しい貴族の方へ、融通できる仕組みを作りたいと思っていますの」
『もったいない制服』は、いわばお下がり。
裕福な貴族にとってはお下がりを着るなんて思いもよらないことだろう。
しかし、お下がりでもいいから制服が欲しい層は存在する。
貴族というのは体面をことさら気にするから、なかなか自らの懐具合をさらけだすことはしない。
だが、『もったいない声掛け』を行う中で、こっそりと事情を打ち明けてくれた方たちがいた。
その方たちは使える物を捨ててしまう習慣にもどかしさを覚えていたのだという。
最後まで大事に使う習慣が、少しでも広まって欲しいと『もったいない革命』に賛同し、今では活動の協力をしてくれている。
私が「もったいないですわ!」と声掛けをすることで、捨てることを思い直す生徒も確かにいるのだ。
それでも捨てる選択をする生徒からは、寄付金の基としてありがたく回収させてもらっているが。
アラスターが挙手をする。
質問があるのだろう。
ベネディクトが質問を許可し、アラスターは立ち上がって私に向き直った。
「制服がオーダーメイドなのは、ひとりひとりの体格が違うからだよね? 仕立て直すにしてもあまりにサイズが異なれば、難しいと思うんだけど?」
「その通りですわ。ですので制服を集めた後、大まかにサイズ分けをしようと思っていますの。そして試着室を用意して、なるべくご自身に合う制服を選んで持ち帰っていただこうと考えています」
「ということは、それなりの数の制服が集まった方がいいということ?」
「そうなんです。ご協力いただけますかしら?」
ジェニファーはアラスターに意味深な微笑みを送る。
ぎょっとした顔をしたアラスターだが、すぐにその意味を理解した。
「つまり、僕が声をかけて回れってことかな?」
「ご明察ですわね。こういうのは一番高位な方が適役なのです。王子殿下からのお願いを、断れる貴族はいませんでしょう?」
「まいったよ、君にかかれば僕も都合のいい駒になるしかないんだね」
アラスターは席に着きながらも、嫌そうな顔ではない。
「ジェニファー嬢の提言について、これ以上の質問がなければ採決をとります。賛成であれば挙手をお願いします」
ベネディクトの声に、マイルズとアラスターは手を挙げた。
リコリスはずっと私を睨みつけるばかりで、多分、話は聞いていなかったと思う。
そうね、あなたの頭は恋愛のために使わないとね。
『もったいない革命』に巻き込むのはマイルズとアラスターとベネディクトだけで十分よ。
彼らはあなたの攻略対象者たちだとは思うけど、生徒会活動のときだけは貸してちょうだいね。
ジェニファーはリコリスにもニッコリしてみせた。