もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
四話 怒りのリコリス
「なんなの、あの女! あたしに向かって余裕の笑みを浮かべるなんて!」
第一回役員会議がいつの間にか終わり、解散の指示があったばかりだ。
リコリスは、マイルズやアラスターに囲まれているジェニファーを憎々し気に見ると生徒会室を出た。
悪役令嬢が仕事をしないばかりか、主人公の座を奪おうとしているのではないか。
そんな被害妄想に駆られたリコリスは、反『もったいない革命』の勢力を築く決意をする。
「邪魔してやるわ、あんな活動。金持ちにとってお金をつかうことは義務よ。富の分配なんだから!」
なにがもったいないよ、貴族のくせに。
ジェニファーは学園では人気があるが、それだけだ。
この乙女ゲームには続編がある。
「見てなさい、あたしが先に続編のメイン攻略対象者をものにしてやるわ。こんな学園内で女王さま気取りのあんたなんかじゃ、絶対に落とせない相手をね」
◇◆◇
第一回役員会議で採択された『もったいない制服』については、アラスターが王族主催の舞踏会で大々的に協力を呼び掛けたことで、大量の制服が学園に届けられた。
「ほら、言った通りだったでしょう? こういうのは鶴の一声なんですわ」
「そうか、僕は鶴だったか」
アラスターはおかしそうに笑う。
ジェニファーは女子生徒の制服を、アラスターは男子生徒の制服をサイズごとに分けている。
「これだけあれば、どれか合うサイズが見つかるだろう」
マイルズは、サイズが分かるタグをハンガーにつけている。
ベネディクトは学園長にかけあって、制服を保管する部屋と試着室を準備してくれた。
あとは困っていた生徒やその弟妹を招いて、制服を選んでもらうだけだ。
「うまくいきそうだな。『もったいない制服』は」
男子生徒の制服を分け終わったアラスターが、マイルズを手伝おうと移動した。
助かることに、この王子さまはフットワークが軽い。
「みなさまの協力のおかげですわ。ありがとうございます」
「なあ、マイルズ、あれからリコリスを見かけないがどうしたんだ? 今日も招集はかけたんだろう?」
「今日は学園自体に来ていないそうだ。ベネディクト先生から聞いた」
制服をハンガーにかけながら、マイルズが首をひねっている。
「もっと邪魔してくると思ったんだけどな……」
その小さな声は誰の耳にも届かなかった。
◇◆◇
『もったいない制服』の成功に勢いをつけて、第二回役員会議でジェニファーは三の矢を放つ。
「今度はなにをするんだ?」
アラスターは待ち構えたように聞いてくる。
「今度は『もったいないバザー』ですわ。『もったいない声掛け』をしていて考えましたの。人によって必要なものとそうでないものって様々なんですのね。あの人が捨てたものをこの人は欲しがっている、またその逆もある。そうした要求をうまく擦り合わせることができたら、もっと無駄がないのにって思いつきまして」
ジェニファーはまた資料を配布する。
「自分がいらないと思うものを持参して、他の人のいらないものと交換するんです」
「へえ、おもしろそうだけど、仕組みは?」
「それぞれが持ってくるものの、価値が異なるんじゃないか?」
アラスターもマイルズも、すっかり『もったいない革命』の一員だ。
どんどん質問をしてくるし、態度が前のめりだ。
とてもいい傾向だとジェニファーは喜ぶ。
半面、まったく関心がないのがリコリスだ。
そもそも乙女ゲームの主人公と悪役令嬢という立ち位置にいる二人だ。
仲良くなるのもおかしいのかもしれない。
「リコリス嬢はどう思いますか?」
ベネディクトが声をかけている。
「制服のときも思ったけど、中古なんて誰が使うの? あたしの周りのお友だちは、そんなの絶対イヤだって言ってるよ!」
乱暴な言い方に、リコリス以外はびっくりしている。
もう攻略対象者たちに媚びを売るのは止めたのだろうか?
マイルズがリコリスをなだめるように説明する。
「リコリス嬢は欠席していたから知らないだろうが、『もったいない制服』を譲渡する日はたくさんの生徒とその家族に感謝をされて大盛況だったんだ。確かに、裕福な生徒の間では受け入れられない話かもしれないが、そういう生徒ばかりではない。俺たち生徒会は、生徒全員のことを考える必要があると思っている」
「そうだぞ、リコリス嬢。とくに困っている生徒に手を差し伸べるのが生徒会役員だろ?」
アラスターもそこに同意した。
二人に言い含められて、リコリスは頬を膨らませプイと顔を背ける。
そんな顔も可愛いけど、この生徒会室にいる四人の攻略対象者たちは呆れ顔だ。
そう、珍しく寡黙騎士のクリフォードまで呆れているのだ。
いつもはアラスターの後ろで、置き物のように控えているだけなのに。
ジェニファーは乙女ゲームの内容を知らないから、このストーリーで正解なのか分からない。
だがきっと、本来のストーリーに『もったいない革命』は無かっただろう。
そのせいでリコリスの進む道がおかしくなっているのかもしれない。
しかし何が正解か分からないジェニファーには、やり直しようもない。
悪いけど、私は私の道を行くわ!
ジェニファーはマイルズやアラスターに、考えてきた『もったいないバザー』の仕組みを説明する。
『もったいない声掛け』のときに品物を買い取ってくれた商人に、値付けを依頼するのだ。
値付けといっても本物のお金ではない。
バザーでだけ使用できるチケットを生徒会が発行する。
たとえば持ってきてもらった要らないものを、この花瓶は5チケット、このコートは8チケット、というふうに鑑定してもらい、生徒会がチケットを生徒に渡す。
そして生徒は他の人の要らないものを、そのチケットを使って購入する。
中には売れ残るものもあるだろう。
そうしたものは最後にまとめて商人に言い値で買い取ってもらえば、商人にとっても利になる。
簡単な説明だったが、二人は理解してくれた。
なぜかリコリスも真剣に聞いていた。
あら、興味を持ってもらえたかしら?
一度、その商人にも話を聞きたいということで、今日の会議はお開きとなった。
ジェニファーはまた『もったいない革命』が一歩進んだことを喜んだ。
リコリスが何を考えていたのかも知らずに。
第一回役員会議がいつの間にか終わり、解散の指示があったばかりだ。
リコリスは、マイルズやアラスターに囲まれているジェニファーを憎々し気に見ると生徒会室を出た。
悪役令嬢が仕事をしないばかりか、主人公の座を奪おうとしているのではないか。
そんな被害妄想に駆られたリコリスは、反『もったいない革命』の勢力を築く決意をする。
「邪魔してやるわ、あんな活動。金持ちにとってお金をつかうことは義務よ。富の分配なんだから!」
なにがもったいないよ、貴族のくせに。
ジェニファーは学園では人気があるが、それだけだ。
この乙女ゲームには続編がある。
「見てなさい、あたしが先に続編のメイン攻略対象者をものにしてやるわ。こんな学園内で女王さま気取りのあんたなんかじゃ、絶対に落とせない相手をね」
◇◆◇
第一回役員会議で採択された『もったいない制服』については、アラスターが王族主催の舞踏会で大々的に協力を呼び掛けたことで、大量の制服が学園に届けられた。
「ほら、言った通りだったでしょう? こういうのは鶴の一声なんですわ」
「そうか、僕は鶴だったか」
アラスターはおかしそうに笑う。
ジェニファーは女子生徒の制服を、アラスターは男子生徒の制服をサイズごとに分けている。
「これだけあれば、どれか合うサイズが見つかるだろう」
マイルズは、サイズが分かるタグをハンガーにつけている。
ベネディクトは学園長にかけあって、制服を保管する部屋と試着室を準備してくれた。
あとは困っていた生徒やその弟妹を招いて、制服を選んでもらうだけだ。
「うまくいきそうだな。『もったいない制服』は」
男子生徒の制服を分け終わったアラスターが、マイルズを手伝おうと移動した。
助かることに、この王子さまはフットワークが軽い。
「みなさまの協力のおかげですわ。ありがとうございます」
「なあ、マイルズ、あれからリコリスを見かけないがどうしたんだ? 今日も招集はかけたんだろう?」
「今日は学園自体に来ていないそうだ。ベネディクト先生から聞いた」
制服をハンガーにかけながら、マイルズが首をひねっている。
「もっと邪魔してくると思ったんだけどな……」
その小さな声は誰の耳にも届かなかった。
◇◆◇
『もったいない制服』の成功に勢いをつけて、第二回役員会議でジェニファーは三の矢を放つ。
「今度はなにをするんだ?」
アラスターは待ち構えたように聞いてくる。
「今度は『もったいないバザー』ですわ。『もったいない声掛け』をしていて考えましたの。人によって必要なものとそうでないものって様々なんですのね。あの人が捨てたものをこの人は欲しがっている、またその逆もある。そうした要求をうまく擦り合わせることができたら、もっと無駄がないのにって思いつきまして」
ジェニファーはまた資料を配布する。
「自分がいらないと思うものを持参して、他の人のいらないものと交換するんです」
「へえ、おもしろそうだけど、仕組みは?」
「それぞれが持ってくるものの、価値が異なるんじゃないか?」
アラスターもマイルズも、すっかり『もったいない革命』の一員だ。
どんどん質問をしてくるし、態度が前のめりだ。
とてもいい傾向だとジェニファーは喜ぶ。
半面、まったく関心がないのがリコリスだ。
そもそも乙女ゲームの主人公と悪役令嬢という立ち位置にいる二人だ。
仲良くなるのもおかしいのかもしれない。
「リコリス嬢はどう思いますか?」
ベネディクトが声をかけている。
「制服のときも思ったけど、中古なんて誰が使うの? あたしの周りのお友だちは、そんなの絶対イヤだって言ってるよ!」
乱暴な言い方に、リコリス以外はびっくりしている。
もう攻略対象者たちに媚びを売るのは止めたのだろうか?
マイルズがリコリスをなだめるように説明する。
「リコリス嬢は欠席していたから知らないだろうが、『もったいない制服』を譲渡する日はたくさんの生徒とその家族に感謝をされて大盛況だったんだ。確かに、裕福な生徒の間では受け入れられない話かもしれないが、そういう生徒ばかりではない。俺たち生徒会は、生徒全員のことを考える必要があると思っている」
「そうだぞ、リコリス嬢。とくに困っている生徒に手を差し伸べるのが生徒会役員だろ?」
アラスターもそこに同意した。
二人に言い含められて、リコリスは頬を膨らませプイと顔を背ける。
そんな顔も可愛いけど、この生徒会室にいる四人の攻略対象者たちは呆れ顔だ。
そう、珍しく寡黙騎士のクリフォードまで呆れているのだ。
いつもはアラスターの後ろで、置き物のように控えているだけなのに。
ジェニファーは乙女ゲームの内容を知らないから、このストーリーで正解なのか分からない。
だがきっと、本来のストーリーに『もったいない革命』は無かっただろう。
そのせいでリコリスの進む道がおかしくなっているのかもしれない。
しかし何が正解か分からないジェニファーには、やり直しようもない。
悪いけど、私は私の道を行くわ!
ジェニファーはマイルズやアラスターに、考えてきた『もったいないバザー』の仕組みを説明する。
『もったいない声掛け』のときに品物を買い取ってくれた商人に、値付けを依頼するのだ。
値付けといっても本物のお金ではない。
バザーでだけ使用できるチケットを生徒会が発行する。
たとえば持ってきてもらった要らないものを、この花瓶は5チケット、このコートは8チケット、というふうに鑑定してもらい、生徒会がチケットを生徒に渡す。
そして生徒は他の人の要らないものを、そのチケットを使って購入する。
中には売れ残るものもあるだろう。
そうしたものは最後にまとめて商人に言い値で買い取ってもらえば、商人にとっても利になる。
簡単な説明だったが、二人は理解してくれた。
なぜかリコリスも真剣に聞いていた。
あら、興味を持ってもらえたかしら?
一度、その商人にも話を聞きたいということで、今日の会議はお開きとなった。
ジェニファーはまた『もったいない革命』が一歩進んだことを喜んだ。
リコリスが何を考えていたのかも知らずに。