僕の月
第10話
「あ、もうこんな時間だ。帰らなきゃ。勇士と結奈が待ってる。」
「弟妹?」
「そうそう。この時間くらいまでいつも友達と遊んでるんだ。二人とも。」
「そうか。」
「今日はありがとうね。めっちゃ助かった。」
「ああ。気をつけて帰れよ。まだ明るいけど、この辺り人通り少ないからな。」
「うん。じゃあね!」
「宗一郎、お前、彼女家に連れ込んで何してたんだよ。」
「親父。」
最悪だ。こんなタイミングで帰ってくるなんて思わなかった。余計な事をこいつが言う前に、やっぱり沙夏を家まで送ろう。
「あ、こんにちは。宗一郎君とお付き合いしています。相沢沙夏です。」
「沙夏ちゃんか。よろしくね。父の裕一郎だよ。」
「お前、何しに戻ってきたんだよ。」
沙夏を急かそうとしたら、こいつはそれを見計らったかのようにペラペラと御託を並べ始めた。
「おいおい、彼女の前でやめようぜ。仲良くしようよ。ね。ごめんね~沙夏ちゃん、こいつ、いつもこんなんなの?」
「いえ、すごく優しいですよ。」
「そう?それは良かった。俺にも、もうちょっと優しくしてくれても良いんだけどね。」
「ふふっ。」
ストレスで頭痛がしてきた。
「沙夏、何笑ってんだ。」
「いや、宗一郎とお父さん、似てるなと思って。」
「顔だけだ。」
「そんなことないよ。雰囲気とか、優しそうな所とか、そっくりだよ。」
こいつは、めずらしくあっけにとられたような顔をしていた。
「はははっ。まいったな。そうか。似てるか。沙夏ちゃん、これからも宗一郎をよろしくね。」
「はい!」
「あんたに言われたくないんだよ・・・。」
親父は、沙夏の頭をなでて、優しく笑っている。こんな顔を見たのはいつぶりだろうか。幼い頃は、親父に笑ってほしくて一生懸命物語を書いていた。いつの間にか顔すら会わせなくなっていたけれど。
「沙夏、帰ろう。」
「うん!」
「また、いつでもおいで。」
ずいぶん沙夏のことを気にいったようだ。本当に気にくわないけど、沙夏がなんだか嬉しそうだから、それでいい。
「私、宗一郎のお父さん、好きだな。」
帰り道、沙夏はそう言った
「そうか。」
「うん。宗一郎はさ、前にお兄ちゃんに小説を書いて見せてたって言ったでしょ。」
「ああ。」
「私も、読んでみたいな。実は、宗一郎からお兄ちゃんのことを聞いた後、お父さんの本を読んでみたの。『君と雪解けの日に。』って本を読んだんだけどあの話って多分、宗一郎のことだよね。すごくお父さんの思いが伝わって、宗一郎は愛されてるんだなって思った。」
兄妹、言っていることも同じだ。
「ああ。それは、冬樹にも言われた。それで喧嘩になったんだ。僕がむきになってしまったから。」
「やっぱり、お父さんとあんまり仲良くないの?」
「まあ、そんなところだ。」
「ごめん。無神経なこと言っちゃった。」
「良いんだよ。あの本を読んだ人はきっとそう思うだろう。本当のあいつなんて誰も知らないからな。それより沙夏、寒くないか?」
僕は話を変えた。沙夏を送り届けて家に帰り着いたときにはもう、辺りは暗くなっていた。
玄関の門を開け、中に入ると、中庭にあいつの姿があった。着物に着替えて、紫煙をくゆらせている。まだ帰っていなかったのかと思い、嫌な顔をして二階に上ろうとしたとき、
「宗一郎、小説はもう書かないのか?」
そう、呼び止められた。
「書かない。お前には関係ないだろ。」
「諦めるのか?」
「は?誰のせいだと思ってるんだ。」
「もー。そういう言い方しかできないのかねえ。沙夏ちゃん、びっくりしてたでしょ。仕事で疲れて帰った親父をもっと労ってよ。」
「沙夏と会っても、余計な事言うなよ。」
せっかく沙夏と二人きりで楽しい一時を過ごせたのに、こいつのせいで台無しになった。
「はー、全く。ああ、そうだ。これからは家にいる事が増えるから、沙夏ちゃん呼ぶときは声かけて。出て行くから。」
「今すぐ出て行け。」
そう言い放ち、僕は自室にこもった。
「あいつの夢を潰したのは俺なのかな。」
息子が扉を閉める音を聞いて、裕一郎は、そうつぶやいた。
「弟妹?」
「そうそう。この時間くらいまでいつも友達と遊んでるんだ。二人とも。」
「そうか。」
「今日はありがとうね。めっちゃ助かった。」
「ああ。気をつけて帰れよ。まだ明るいけど、この辺り人通り少ないからな。」
「うん。じゃあね!」
「宗一郎、お前、彼女家に連れ込んで何してたんだよ。」
「親父。」
最悪だ。こんなタイミングで帰ってくるなんて思わなかった。余計な事をこいつが言う前に、やっぱり沙夏を家まで送ろう。
「あ、こんにちは。宗一郎君とお付き合いしています。相沢沙夏です。」
「沙夏ちゃんか。よろしくね。父の裕一郎だよ。」
「お前、何しに戻ってきたんだよ。」
沙夏を急かそうとしたら、こいつはそれを見計らったかのようにペラペラと御託を並べ始めた。
「おいおい、彼女の前でやめようぜ。仲良くしようよ。ね。ごめんね~沙夏ちゃん、こいつ、いつもこんなんなの?」
「いえ、すごく優しいですよ。」
「そう?それは良かった。俺にも、もうちょっと優しくしてくれても良いんだけどね。」
「ふふっ。」
ストレスで頭痛がしてきた。
「沙夏、何笑ってんだ。」
「いや、宗一郎とお父さん、似てるなと思って。」
「顔だけだ。」
「そんなことないよ。雰囲気とか、優しそうな所とか、そっくりだよ。」
こいつは、めずらしくあっけにとられたような顔をしていた。
「はははっ。まいったな。そうか。似てるか。沙夏ちゃん、これからも宗一郎をよろしくね。」
「はい!」
「あんたに言われたくないんだよ・・・。」
親父は、沙夏の頭をなでて、優しく笑っている。こんな顔を見たのはいつぶりだろうか。幼い頃は、親父に笑ってほしくて一生懸命物語を書いていた。いつの間にか顔すら会わせなくなっていたけれど。
「沙夏、帰ろう。」
「うん!」
「また、いつでもおいで。」
ずいぶん沙夏のことを気にいったようだ。本当に気にくわないけど、沙夏がなんだか嬉しそうだから、それでいい。
「私、宗一郎のお父さん、好きだな。」
帰り道、沙夏はそう言った
「そうか。」
「うん。宗一郎はさ、前にお兄ちゃんに小説を書いて見せてたって言ったでしょ。」
「ああ。」
「私も、読んでみたいな。実は、宗一郎からお兄ちゃんのことを聞いた後、お父さんの本を読んでみたの。『君と雪解けの日に。』って本を読んだんだけどあの話って多分、宗一郎のことだよね。すごくお父さんの思いが伝わって、宗一郎は愛されてるんだなって思った。」
兄妹、言っていることも同じだ。
「ああ。それは、冬樹にも言われた。それで喧嘩になったんだ。僕がむきになってしまったから。」
「やっぱり、お父さんとあんまり仲良くないの?」
「まあ、そんなところだ。」
「ごめん。無神経なこと言っちゃった。」
「良いんだよ。あの本を読んだ人はきっとそう思うだろう。本当のあいつなんて誰も知らないからな。それより沙夏、寒くないか?」
僕は話を変えた。沙夏を送り届けて家に帰り着いたときにはもう、辺りは暗くなっていた。
玄関の門を開け、中に入ると、中庭にあいつの姿があった。着物に着替えて、紫煙をくゆらせている。まだ帰っていなかったのかと思い、嫌な顔をして二階に上ろうとしたとき、
「宗一郎、小説はもう書かないのか?」
そう、呼び止められた。
「書かない。お前には関係ないだろ。」
「諦めるのか?」
「は?誰のせいだと思ってるんだ。」
「もー。そういう言い方しかできないのかねえ。沙夏ちゃん、びっくりしてたでしょ。仕事で疲れて帰った親父をもっと労ってよ。」
「沙夏と会っても、余計な事言うなよ。」
せっかく沙夏と二人きりで楽しい一時を過ごせたのに、こいつのせいで台無しになった。
「はー、全く。ああ、そうだ。これからは家にいる事が増えるから、沙夏ちゃん呼ぶときは声かけて。出て行くから。」
「今すぐ出て行け。」
そう言い放ち、僕は自室にこもった。
「あいつの夢を潰したのは俺なのかな。」
息子が扉を閉める音を聞いて、裕一郎は、そうつぶやいた。