戻ってきたんだ…(短編)
忘れたとは言わせない
ふと気がつくと、僕は家の前に立っていた。
生前、僕と彼女が住んでいた家。
見た目は全然変わってない。
小さい頃二人で植えたキンモクセイも。
自転車でぶつかって付けた塀のへこみも…。
まぁ、僕が事故にあってまだ1年そこらしか経っていないのだから。
当たり前と言ったら当たり前か。
でも、彼女はもうとっくに、引っ越してしまったかもしれない。
もしかしたら僕のことを、忘れてしまったかもしれない。
…………。
いや。
忘れたとは言わせない。
たとえ忘れてしまっていたとしても、思い出させてみせる。
ドサッ
背後で何か入ったビニール袋が地面に落ちた音。
ゆっくりとその音に振り向くと。
彼女は大きな目を見開いて。
消えそうなほど小さな声で呟いた。
「翔………?」
それに軽く頷くと、彼女は両手で口を押さえた。
嘘…と声が漏れたのが聞こえる。
ああ、この様子だと、思い出させる必要はないみたいだ。