戻ってきたんだ…(短編)
「……え?」
そう瑠衣に聞き返した時には、
もう既に「パパ!」と声をあげて駆け出していた。
『幸せに、なれたんだな』
先ほどの言葉が頭をぐるぐると回る。
さっきの言葉と懐かしい柔らかな笑顔。
そこに浮かぶのはただ一人の姿だけ。
「翔……?」
瑠衣が見上げていた空を私も見上げると、
こんな冬が近づいている季節だというのに
ふんわりとキンモクセイの香りが漂った。
懐かしい、彼が好きだった花。
翔…ずっと見守っててくれてたんだね。
本当に、面倒見がいいんだから……。
私は苦笑を浮かべてから、
小さくありがとう、と呟いた。
私はもう、大丈夫。
大好きな人と結婚して、
その人との子どもにも恵まれた。
だから次は、あなたが幸せになる番だよ。
「ママー!はーやーくー!」
「はーい」
幸せに、なってね。
〔完〕