戻ってきたんだ…(短編)
君には僕が必要だろう?
「翔…?翔なの?嘘…なんで………」
明らかに動揺を隠せない様子の彼女に、思わず笑みが零れる。
1年前とちっとも変わってない。
「久しぶり、紗梨奈(さりな)」
「久しぶりって……なんで?どうして翔がここに……――」
「……分からない。でも、紗梨奈に呼ばれた気がしたんだ」
「わたしに……?」
それに静かに頷くと、彼女の瞳から雫が零れ落ちた。
それは何度も何度も頬を伝って、拭っても拭いきれない程で。
見ていられなくて、僕もそっと彼女の涙を拭った。
「っ………!」
彼女は目を見開いているけど。
正直僕も驚いた。
まさか、触れられるなんて……。
紗梨奈の頬は、真冬の冷気にあたって冷えていたけど。
僕にはとても暖かくて、懐かしいぬくもりだった。
「翔……」
少し哀しそうに眉を下げて、僕の手に自分の手を重ねる彼女に。
前みたいに笑いかける。
「ほんと、泣き虫だな、紗梨奈は。
……ちっとも変わってない」
「だって……っ」
「…1年前の今日も、そんな風に泣いてたのか…――?」
そう尋ねると、彼女は益々悲しそうに顔を歪めて、僕の手をぎゅっと握った。
「…だって……あんまり、急だったから……っ」
「…………」
「朝、普通に、笑って…別れて………。
帰りだって……私、掃除だったから、先に帰ってもらった…だけなのに………。
なのに…っ、突然……きゃっ!」
気づいた時にはもう、彼女を抱き締めていた。
そして耳元で小さく囁く。
「ごめんな…」
「っ…翔……逢いた、かった…」
「僕もだよ…」
神様…もし、いたのならありがとう。
僕と紗梨奈を、もう一度逢わせてくれて……。
そして――あともう一つ、我が儘を聞いてもらえるなら
僕に時間をください。
どうかもう少しだけ、この幸せな時間を。
僕には紗梨奈が、
紗梨奈には僕が、
必要なんだ。