戻ってきたんだ…(短編)
笑顔でいてほしいんだ
家に入ると、中もあまり変わった様子はなかった。
みんなで囲んだテーブルも。
よくチャンネル争いをしたテレビも。
毎日違う花を生けていた花瓶も。
全部、僕が生きていた頃のまま………。
…少し変わったといえば、
テーブルの上に僕の写真が飾ってあることと、和室に仏壇ができたこと。
この二つを見ると、やっぱり僕は死んだんだってことを実感する。
僕は写真を手に取った。
写真の中の僕は誰かと話しているようで、横を向いて笑っている。
「……こんな写真、いつの間に…」
「それ、わたしが撮ったの」
いきなり背後から声をかけられて、少し驚きながらも振り向くと、
二つのマグカップを両手に持った紗梨奈が立っていた。
「はい」
「あ、あぁ…どうも」
そっと差し出された青い猫のイラストが描かれたマグカップ。
一口飲めば、少し苦い、コーヒーの味が広がる。
紗梨奈はココアを飲んでいるようだった。
「…その写真ね、文化祭のときに隠し撮りしちゃった」
「ふぅん……」
僕の反応に、紗梨奈は意外そうに目を丸くした。
「あれ、怒らないの?」
「…………は?」
今度は僕が驚く番だ。
「何で怒る必要があるんだよ」
「え…だって翔、写真嫌いだから」
「まぁ、そうだけど……」