戻ってきたんだ…(短編)
「っ……翔…?」
驚いたように声をあげる彼女の耳元に、そっと囁く。
「……我慢しなくていいから」
さらにぎゅっと強く抱き締めて言葉を紡ぐ。
「紗梨奈は昔っから変に見栄張るからな……。
我慢するなよ。
泣きたいときは、泣いていいんだ…」
そう諭すようにゆっくりと言えば、背中のシャツをぎゅっと掴まれる。
小さく震える体と、時折聞こえるしゃっくり。
彼女は何度も何度も僕の名前を呼んでは、涙を流した。
それを黙って聞きながら、優しく背中を撫でる。
そしてゆっくりと手を動かしながら心中で呟く。
…紗梨奈……ごめん。
約束したのに…。
絶対、泣かせないって。
僕が守るって………。
ずっと一緒だって―――。
それなのに、
今彼女が泣いている原因は僕で、
けど僕にはどうすることもできない。
…自分がいつ消えてしまうのかさえも、分からない。
でも……
「紗梨奈」
―――だからこそ、伝えたいことがある。
「大好きだ」
世界中で、誰よりも。
「愛してる」
前だったら、恥ずかしくてこんなこと絶対言えなかっただろうな。
「翔………?」
今だからこそ言える言葉…。
――初めて、好きになった人。
だから僕は思うんだ。
「紗梨奈、笑って?」
君には、幸せになってほしいから。
僕なんかに縛られてちゃいけない。
他の奴に取られるのは癪だけど、それで君が幸せになれるなら
新しい奴を見つけて、笑ってほしい。
――――僕は、
「君には笑顔でいてほしいんだ」