悪役令嬢に転生した元絵師は、異世界でもマイペースを崩さない
時は過ぎ、あっという間に1週間が経過した。
件の王都学園には、バッチリメイクのご令嬢と礼服でキメた令息達が入学式の会場に続々と集まってきていた。
この学校には制服はない。
だからこそ、財力を見せつけるために、ご令嬢もご令息も適度に着飾った衣装を身に着けている。
そう、日本の小学校の入学式でも見られる、あの一日限定“礼服着用現象”と似たようなものだ。
そんな中、会場の賑わいを一瞬で静寂に変えた、不自然な人物が現れる。
目と耳にかかる長さの前髪から覗く右目は紫色。ショートカットの銀髪は、左側に分けた方の前髪を耳にかけ、耳たぶには琥珀色のピアスが覗いている。
中性的な美しさを纏い、紺色の騎士服に身を包んだ男装の令嬢。
彼女の名はキヨノ·エバンス、辺境伯の第一子だった。
「まあ。エバンス家の長女であるキヨノ様が領地内の騎士団に入団されたというのは本当だったのね」
「長かった髪もバッサリと切られて。ご令嬢としてはあるまじきことだけど、とても凛々しくて格好いいわ」
キヨノの登場で、一瞬、静けさに包まれた会場であったが、好奇心には勝てないご令嬢達の噂話に花が咲き、辺りは再び喧騒に包まれた。
「出だしは上々」
腰に礼服用の帯剣を携え、壁際に佇むキヨノはどう見てもイケメン騎士だった。
エバンス家は先祖代々、辺境を守る騎士の家系。
王都から独立した騎士団を持ち、隣国からの侵入を防ぐ役割を持つ。
ゲーム内のキヨノの役割は、実家である辺境伯の地位を傘に着て威張り散らし、入学した学園でヒロインをいじめる悪役令嬢だった。
もちろん、剣などには微塵も興味のないテンプレの散財系お嬢様の役どころ。
しかし、中身が清乃である現世のキヨノは違う。
元々、幼い頃から剣を嗜み、護身術に長けていながらも(なんてチート)、母親に泣いて頼まれて戦闘実践には参加していなかった、というのが実情の戦闘系お嬢様である。
ということで、前世を思い出したキヨノは迷わず自領地内の騎士団に入団を希望した。
学園に入学してしまえば、会ったこともない王子様や公爵令息の婚約者候補にされてしまう可能性がある。
それは、キヨノが入学試験で優秀な成績をおさめていたことと、華やかな容姿が評価されるからに他ならない。
“だったら、その真逆を行ってやる”
既に優秀な成績をおさめてしまった事は、もはや消せない過去である。
ならば、可憐な容姿を変えること。令嬢にあるまじき短髪や男装をしていれば、悪評が立ち、王太子や公爵令息の婚約者候補に上がることはないだろうと考えたのである。
ついでに、領地の騎士団にまで入団する念の入れよう。
母親には泣いて縋られたが、騎士になれなければ修道院に入る(テンプレ)と脅して、勝利を勝ち取った。
これで、なんとかキヨノは悪役令嬢への道は一歩遠ざかったであろう。
清乃は人知れず安堵のため息を吐く。
しかし、シナリオの強制力を甘く見てはいけない。
そう、前世の清乃の記憶は今でも警鐘を鳴らし続けている。
件の王都学園には、バッチリメイクのご令嬢と礼服でキメた令息達が入学式の会場に続々と集まってきていた。
この学校には制服はない。
だからこそ、財力を見せつけるために、ご令嬢もご令息も適度に着飾った衣装を身に着けている。
そう、日本の小学校の入学式でも見られる、あの一日限定“礼服着用現象”と似たようなものだ。
そんな中、会場の賑わいを一瞬で静寂に変えた、不自然な人物が現れる。
目と耳にかかる長さの前髪から覗く右目は紫色。ショートカットの銀髪は、左側に分けた方の前髪を耳にかけ、耳たぶには琥珀色のピアスが覗いている。
中性的な美しさを纏い、紺色の騎士服に身を包んだ男装の令嬢。
彼女の名はキヨノ·エバンス、辺境伯の第一子だった。
「まあ。エバンス家の長女であるキヨノ様が領地内の騎士団に入団されたというのは本当だったのね」
「長かった髪もバッサリと切られて。ご令嬢としてはあるまじきことだけど、とても凛々しくて格好いいわ」
キヨノの登場で、一瞬、静けさに包まれた会場であったが、好奇心には勝てないご令嬢達の噂話に花が咲き、辺りは再び喧騒に包まれた。
「出だしは上々」
腰に礼服用の帯剣を携え、壁際に佇むキヨノはどう見てもイケメン騎士だった。
エバンス家は先祖代々、辺境を守る騎士の家系。
王都から独立した騎士団を持ち、隣国からの侵入を防ぐ役割を持つ。
ゲーム内のキヨノの役割は、実家である辺境伯の地位を傘に着て威張り散らし、入学した学園でヒロインをいじめる悪役令嬢だった。
もちろん、剣などには微塵も興味のないテンプレの散財系お嬢様の役どころ。
しかし、中身が清乃である現世のキヨノは違う。
元々、幼い頃から剣を嗜み、護身術に長けていながらも(なんてチート)、母親に泣いて頼まれて戦闘実践には参加していなかった、というのが実情の戦闘系お嬢様である。
ということで、前世を思い出したキヨノは迷わず自領地内の騎士団に入団を希望した。
学園に入学してしまえば、会ったこともない王子様や公爵令息の婚約者候補にされてしまう可能性がある。
それは、キヨノが入学試験で優秀な成績をおさめていたことと、華やかな容姿が評価されるからに他ならない。
“だったら、その真逆を行ってやる”
既に優秀な成績をおさめてしまった事は、もはや消せない過去である。
ならば、可憐な容姿を変えること。令嬢にあるまじき短髪や男装をしていれば、悪評が立ち、王太子や公爵令息の婚約者候補に上がることはないだろうと考えたのである。
ついでに、領地の騎士団にまで入団する念の入れよう。
母親には泣いて縋られたが、騎士になれなければ修道院に入る(テンプレ)と脅して、勝利を勝ち取った。
これで、なんとかキヨノは悪役令嬢への道は一歩遠ざかったであろう。
清乃は人知れず安堵のため息を吐く。
しかし、シナリオの強制力を甘く見てはいけない。
そう、前世の清乃の記憶は今でも警鐘を鳴らし続けている。