悪役令嬢に転生した元絵師は、異世界でもマイペースを崩さない
いよいよ入学式が始まる。
シナリオによると、この後、王太子が新入生代表の挨拶を行い、その時に会場に視線を向けた王太子が、キラキラと瞳を輝かせたヒロインと視線を交わす、というスチルがあったはず。
しかし、おかしなことに、実際に新入生代表として壇上に登ったのは、悪役令嬢であるはずの王太子婚約者候補第一位···滋子、もといアシゲリー·デイビスだ。
前世の滋子の出身学部は法学部。前世無双しているなら、この結果は当然と言えよう。無意識に出した結果かもしれないが。
それにしても··。
神様の悪戯なのか、どうしても名前に滋子の"シゲ"を入れたかったのか、ネーミングがダサすぎてキヨノは思わず吹き出してしまった。
しかも、アシゲリーとか、いつも腹をかくとと足技(蹴り)を繰り出していただった滋子にはピッタリなんですけど。
···まあ、そんなことはさておき今は考えることが他にある。
この会場にヒロインであるナナミンが実在するのかはパッと見まだ分からない。
しかし、断罪への道が閉ざされた保証はどこにもない今、キヨノは一瞬たりとも気を抜くわけにはいかないのだ。
たとえ、一部がシナリオとは乖離しているとはいえ、キヨノが選ぶ道はただ一つ。
断罪回避オンリーなのだから。
キヨノは無意識に、左手で腰にかけているレイピアの鞘をギュッと握りしめる。
ゲームは開戦の狼煙を上げた。
“なるようにしかならない”なんて死んても言いたくない”
キヨノは壇上にいる、かつての親友にソックリなアシゲールを見つめて心に誓った。
入学式が終わり、それぞれのクラスに向かう。
ゲーム通りの設定なら、キヨノは王太子とその取り巻き面々およびヒロインであるナナミンと同じ魔法学科になるはずだった。
キヨノはその容姿が表す様に、氷と雷属性を持つ優秀な魔道士でもある。
髪と瞳の色が魔法属性を表すなんてものテンプレでしかない。
ゲーム内では、魔法学科での活躍を密かに期待されて王太子その他の婚約者候補にも挙げられそうになった位だ。
しかし、入学直前に領地の騎士団に入団したキヨノは、魔法学科ではなく、騎士学科に所属しなければならないという国の定めた法律に従う必要が出てきた。
もちろん諸悪の根源である王太子とその他諸々、ヒロインとの関わりを断つためにキヨノが狙ってやったことではあるのだが、前世の友人に似た面々と全く関われなくなるのは、少し寂しい気がするキヨノであった。
騎士学科クラスの入り口の扉を開けると、中にいたクラスメイトの視線が一斉にキヨノに集中した。
騎士学科というくらいだから、当然男子生徒がメインのクラスだ。
ただでさえ女子生徒がいないクラスで、中性的な美しさを誇る男装のキヨノが注目を浴びないはずはなかった。
キヨノは、そうした男子生徒からの視線を気にせず、空いている窓側の一番うしろの席に座った。
前の黒板に“座席は自由”と書かれている。
キヨノは前世でもお気に入りだった窓際の席が空いていたことが嬉しくて微笑みを浮かべた。
その美麗な微笑みが、クラスの男子生徒の視線を釘付けにし、後に"魔性の男装令嬢“としてを噂されてしまうことになるとは、鈍感なキヨノは想像すらしていなかった。
「エバンス嬢、俺はリオン。スプリングス家の嫡男で王太子直属の騎士団に所属する騎士だ。よろしく頼む」
他人との接触を極力避けるために、窓際最後部の席を選んだキヨノだったのだが、当然、その右側と前には座席が存在していた。
心を無にして窓の外を眺めて(妄想して)いたのに、右隣の座席から突然声をかけられ、自然と顔を向けたキヨノは、騎士学科なら誰とも関わらなくて済む、と単純に考えていた自分の浅はかさに顔を顰めた。
そう。攻略対象その3、春日吏音もといリオンス·プリングスは騎士、騎士なのである。
たとえ王太子の側近でも、騎士ならば騎士学科に所属する義務があるのをすっかり忘れていた。
“しまった、隣の席なんて逃げ場を失う”
瞬時にそう思って、席を移ろうと周囲を見渡したが、生憎、全席が埋まってしまっていた。
「恐るべし。(強制力)」
「何か言ったか?」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。とはいえ、辺境の一騎士が、王太子の側近とお近づきになれるとは思えませんが」
謙遜ではなく、あっちに行けという敬遠の意味だったのだが、
「由緒あるエバンス家の騎士が王都の騎士に劣るとは思えない。いずれお手合わせ願いたいと思っている」
前世と違い、やや脳筋設定のリオンにはキヨノの嫌味は伝わらなかったようだ。
筋肉だるまのリオン、もとい前世隠密の吏音に細腕のキヨノが叶うはずはないのに···。
キヨノはそう思いながらも、敢えて否定はせずに、軽く頷いて、担任が教室に入ってくる方に視線を移した。
攻略対象と同じクラスで隣の席。
キヨノを待つ未来は、早くも前途多難である。
シナリオによると、この後、王太子が新入生代表の挨拶を行い、その時に会場に視線を向けた王太子が、キラキラと瞳を輝かせたヒロインと視線を交わす、というスチルがあったはず。
しかし、おかしなことに、実際に新入生代表として壇上に登ったのは、悪役令嬢であるはずの王太子婚約者候補第一位···滋子、もといアシゲリー·デイビスだ。
前世の滋子の出身学部は法学部。前世無双しているなら、この結果は当然と言えよう。無意識に出した結果かもしれないが。
それにしても··。
神様の悪戯なのか、どうしても名前に滋子の"シゲ"を入れたかったのか、ネーミングがダサすぎてキヨノは思わず吹き出してしまった。
しかも、アシゲリーとか、いつも腹をかくとと足技(蹴り)を繰り出していただった滋子にはピッタリなんですけど。
···まあ、そんなことはさておき今は考えることが他にある。
この会場にヒロインであるナナミンが実在するのかはパッと見まだ分からない。
しかし、断罪への道が閉ざされた保証はどこにもない今、キヨノは一瞬たりとも気を抜くわけにはいかないのだ。
たとえ、一部がシナリオとは乖離しているとはいえ、キヨノが選ぶ道はただ一つ。
断罪回避オンリーなのだから。
キヨノは無意識に、左手で腰にかけているレイピアの鞘をギュッと握りしめる。
ゲームは開戦の狼煙を上げた。
“なるようにしかならない”なんて死んても言いたくない”
キヨノは壇上にいる、かつての親友にソックリなアシゲールを見つめて心に誓った。
入学式が終わり、それぞれのクラスに向かう。
ゲーム通りの設定なら、キヨノは王太子とその取り巻き面々およびヒロインであるナナミンと同じ魔法学科になるはずだった。
キヨノはその容姿が表す様に、氷と雷属性を持つ優秀な魔道士でもある。
髪と瞳の色が魔法属性を表すなんてものテンプレでしかない。
ゲーム内では、魔法学科での活躍を密かに期待されて王太子その他の婚約者候補にも挙げられそうになった位だ。
しかし、入学直前に領地の騎士団に入団したキヨノは、魔法学科ではなく、騎士学科に所属しなければならないという国の定めた法律に従う必要が出てきた。
もちろん諸悪の根源である王太子とその他諸々、ヒロインとの関わりを断つためにキヨノが狙ってやったことではあるのだが、前世の友人に似た面々と全く関われなくなるのは、少し寂しい気がするキヨノであった。
騎士学科クラスの入り口の扉を開けると、中にいたクラスメイトの視線が一斉にキヨノに集中した。
騎士学科というくらいだから、当然男子生徒がメインのクラスだ。
ただでさえ女子生徒がいないクラスで、中性的な美しさを誇る男装のキヨノが注目を浴びないはずはなかった。
キヨノは、そうした男子生徒からの視線を気にせず、空いている窓側の一番うしろの席に座った。
前の黒板に“座席は自由”と書かれている。
キヨノは前世でもお気に入りだった窓際の席が空いていたことが嬉しくて微笑みを浮かべた。
その美麗な微笑みが、クラスの男子生徒の視線を釘付けにし、後に"魔性の男装令嬢“としてを噂されてしまうことになるとは、鈍感なキヨノは想像すらしていなかった。
「エバンス嬢、俺はリオン。スプリングス家の嫡男で王太子直属の騎士団に所属する騎士だ。よろしく頼む」
他人との接触を極力避けるために、窓際最後部の席を選んだキヨノだったのだが、当然、その右側と前には座席が存在していた。
心を無にして窓の外を眺めて(妄想して)いたのに、右隣の座席から突然声をかけられ、自然と顔を向けたキヨノは、騎士学科なら誰とも関わらなくて済む、と単純に考えていた自分の浅はかさに顔を顰めた。
そう。攻略対象その3、春日吏音もといリオンス·プリングスは騎士、騎士なのである。
たとえ王太子の側近でも、騎士ならば騎士学科に所属する義務があるのをすっかり忘れていた。
“しまった、隣の席なんて逃げ場を失う”
瞬時にそう思って、席を移ろうと周囲を見渡したが、生憎、全席が埋まってしまっていた。
「恐るべし。(強制力)」
「何か言ったか?」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。とはいえ、辺境の一騎士が、王太子の側近とお近づきになれるとは思えませんが」
謙遜ではなく、あっちに行けという敬遠の意味だったのだが、
「由緒あるエバンス家の騎士が王都の騎士に劣るとは思えない。いずれお手合わせ願いたいと思っている」
前世と違い、やや脳筋設定のリオンにはキヨノの嫌味は伝わらなかったようだ。
筋肉だるまのリオン、もとい前世隠密の吏音に細腕のキヨノが叶うはずはないのに···。
キヨノはそう思いながらも、敢えて否定はせずに、軽く頷いて、担任が教室に入ってくる方に視線を移した。
攻略対象と同じクラスで隣の席。
キヨノを待つ未来は、早くも前途多難である。