花に償い
序章
雑巾をバケツの水に浸し、それを固く絞る。皹した指先が痛むけれど、もう慣れたものだった。
ぴり、と何かが走る。
水面に浮かぶ貧相な自分の顔と、みすぼらしい一着しか無い服。破けた場所を縫い合わせて使っている。
わたしは、学園に転入してきた女子、若宮百合音を陥れようとして、それが全て明るみに出て、時を同じくして家業が立ち行かなくなり、一家離散した。
母は弟を連れて実家へ戻り、父は北の海で船に乗る仕事をしている。
誰にも連れて行って貰えなかったわたしは今。
既視感があった。
< 1 / 68 >