花に償い
序章

雑巾をバケツの水に浸し、それを固く絞る。皹した指先が痛むけれど、もう慣れたものだった。

ぴり、と何かが走る。

水面に浮かぶ貧相な自分の顔と、みすぼらしい一着しか無い服。破けた場所を縫い合わせて使っている。

わたしは、学園に転入してきた女子、若宮(わかみや)百合音(ゆりね)を陥れようとして、それが全て明るみに出て、時を同じくして家業が立ち行かなくなり、一家離散した。

母は弟を連れて実家へ戻り、父は北の海で船に乗る仕事をしている。

誰にも連れて行って貰えなかったわたしは今。

既視感があった。

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