花に償い
もう、と思いながら裏口の扉を開ける。
「お待たせしました、飯田橋……」
「薫子さま」
目の前に現れた大型犬、否、肇だった。
確かに、肇は学園の生徒ではないので門限はない。
「……何を」
「ここにいらしたんですね」
「ちょっと、こっち来て」
ここからでは大通りから丸見えだ。
わたしは肇の腕を掴み、細い路地裏へと連れ込む。
「何しに来たの」
「先日は命を助けて頂き、ありがとうございます。でも帰ったら薫子さん、居なくなっていたので」
「あれ、貴方の家だったの……」
立派な家に住んでいる。少なくともわたしよりは。