花に償い

肇がこちらへ駆け寄った。わたしは安堵で涙が出た。

「なんで来たのよ……」

男の持っていたナイフで両手足の拘束を取ってくれた。ぐらりと身体が傾く。それをしっかり受け止めてくれる。

「なんで……」

肇がわたしの前髪を上げる。

「殴られたんですか? 額から血が」
「お腹も蹴られたわ。蹴り返して良いかしら」
「後で、俺が」

声が止まった。ぽた、と腕に水滴が落ちた。

「……薫子さまが、ご無事で……っ」

う、と嗚咽をこらしながら肇がハンカチを取り出した。

自分の涙を拭うのかと思えば、わたしの額の止血をしてくれる。

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