花に償い
百合音を軸に進む物語の中で、薫子はただちょっかいをかけてくる令嬢の一人でしかなく、あっという間に一家離散していた。
「いつも誕生日には歳の数だけ薔薇を用意されていたので」
用意してくれていた、らしい。
わたしの薔薇を。
「……肇、ありがとう」
誰しも自分の物語がある。
薫子が裏で百合音を蹴落そうとしていたことに対しての償いはこれだったのだろうか。
償い、そして生き残る。
この賢くて、すこし馬鹿な犬と共に。
わたしの言葉に嬉しそうにしながら、キッチンでなくこちらに近寄ってきた。