Rhapsody in Love 〜二人の休日〜
・すれ違い
そのまましばらく、みのりの髪に顔をうずめて抱きしめていた遼太郎が、おもむろに言った。
「……そろそろ帰りましょう」
抱擁を解くとすたすたと歩いて車へ向かい、それに乗り込む。
そこに漂う素っ気なさに、みのりはさっきまでの遼太郎と違うものを感じ取る。心にさざなみが立ち、不安という黒いインクが一滴落とされる。
みのりが助手席に座りシートベルトを着けると、遼太郎は何も言わないままに車を発進させた。
来たときよりもマシな道とはいえ、つづら折りの峠道を、遼太郎が無言で運転する。暗い車内には沈黙が支配した。イルミネーションを見ていた時の静けさとは、まるで空気の違う沈黙。
その重苦しさの原因を探すと、みのりの心に言いようのない罪悪感が立ち込めてくる。
さっきの〝お願い〟が、遼太郎を傷つけてしまったのだろうか。傷ついたのではなく、不快だったのだろうか。それとも、怒らせてしまったのだろうか……。
普段の遼太郎が朗らかで優しいから、こんな些細な変化でも、みのりは不安になる。
同時に、遼太郎が無条件に好きでいてくれることを当然のように思っていた自分が、とんでもなく傲慢で思い上がっていたのだと気づかされる。