Rhapsody in Love 〜二人の休日〜
「……先生?時間は大丈夫ですか?」
遼太郎が気がついて問いかけると、みのりは目を丸くして時計を確認する。
すると、その途端に立ち上がった。
「うわ!やば…。今日も俊次くんに愚痴られちゃう!」
机の上にあるバッグを引っ掴むと、玄関のドアに向かう。
「俊次、あいつ……」
遼太郎が眉間に皺を寄せて、険しい顔つきになる。
「俊次くんのツンツン言葉は、甘えたい表れだから、気にしてないけどね」
靴を履きながら、みのりはそう言ってにっこりと微笑んだ。
俊次がみのりに甘えていることも、遼太郎にとっては釈然としない。けれども、さすがのみのりもこの時ばかりは、そんな遼太郎の微妙な感情には気付けなかった。
「それじゃ、遼ちゃん。出る時は、昨日渡した合鍵で、戸締りしてね」
そう言い残すと、みのりは一陣の風が吹き去るようにドアの向こうに姿を消してしまった。
後ろ髪を引かれてしまうような名残惜しさもなく、そのあまりにも余韻のない様子に、ドアの内側に残された遼太郎は拍子抜けしてしまう。
——別れ際に泣いて甘えてくる先生って、めっちゃ可愛いんだけどな……。
そんなみのりに会えなかったことに、少し心が残った。
でも、遼太郎は思い直して、ため息を一つ吐いた。
「…やっぱ、泣かれてしまうより、いいか……」
と呟きながら居間に戻る。
そして、テーブルの上に残されているマグカップを両手にシンクへと向かうと、それを洗い始めた。