Rhapsody in Love 〜二人の休日〜
みのりはバッグの中から、例の〝お守り〟を取り出した。
「これ、受験のお守りなんだけど、愛ちゃんに渡してほしいの。必ず今日渡してね」
「はあ?!なんでわざわざ俺が?!直接渡せばいいじゃん!」
みのりの意図を全く察することのできない俊次は、あからさまに面倒くさがった。
「これは愛ちゃんのためでもあるけど、俊次くんのために頼まれてほしいの」
「だから、なんでだよ?」
「愛ちゃん、もうすぐ卒業しちゃうんだよ?卒業の前に、一番お世話になった先輩にはちゃんと御礼と激励をしなくちゃ。人として当然のことでしょ?」
「……じゃあ、俺以外のヤツも、あいつに何か〝御礼〟してるのかよ?」
しどろもどろしながら、俊次は言葉を絞り出す。
みのりはもう一押しとばかりに、説得攻勢を強めた。
「他の人は問題じゃないの。俊次くんがするかしないか。私は誠意のある行動ができるカッコいい俊次くんを見たいのよ」
俊次の迷いは手に取るように明らかだったけれど、もう俊次は受けざるを得ないと、みのりは確信していた。これを受けないと、俊次は〝誠意のない人〟になってしまうから。
俊次は逡巡の沈黙の後、一つ大きなため息をついた。
「……分かったよ。渡せばいいんだろ?」
小さな封筒に入った〝それ〟を受け取ると、みのりに大きな背中を見せて部室の方へ足を向けた。