Rhapsody in Love 〜二人の休日〜
〝安静〟のしがらみ
みのりのアパートの部屋に入ると、遼太郎はなんだか不思議な感じがした。自分の家ではないのに、ずっと昔から知っているようなとても懐かしくて落ち着く場所。
花のような澄んだ匂いと目に映る家具や調度品。窓から差し込む光や、窓の向こうに広がる景色。
それら全ては遼太郎の感覚に刻みつけられていて、だからこそ懐かしく感じるのかもしれない。
遼太郎はやっと自分の場所に帰ってきたような気持ちになって、ホッと息を抜いた。
一方のみのりは、部屋に入るなりバッグとコートを置くと、甲斐甲斐しく動き始める。
「遼ちゃん、お茶淹れるから座って?」
キッチンで手を洗うと、ヤカンに水を入れながらみのりが声をかけた。
遼太郎は慌てて、みのりの側へ駆け寄る。
「先生、何してるんですか?」
「何って、お茶を……あ、コーヒーの方がいい?」
「え、先生のコーヒー?飲みたいです……って、ダメですよ!今日は安静にしてないと」
「コーヒー淹れるくらいもダメなの?もう痛くもなんともないんだけど」
「いや、脳震盪を甘く見ない方がいいです」
「でも、調べてもらって大丈夫だって言ってたじゃない」
「………」
遼太郎は言葉を逸して、考えてしまう。先程OBがしてくれた判定は「大丈夫だと思う」だったけれど、みのりがドン臭かったせいで検査自体がかなり怪しかった。