Rhapsody in Love 〜二人の休日〜
みのりの息遣いを耳元に感じ、古庄はちょっとドキドキしてしまう。ずっと彼女を作ってこなかった古庄にとって、女性とここまで密着するのは数年ぶりと言ってよかった。
——ねえさんって、いつも、満開の桜みたいな匂いがするんだよな……。
古庄の実家の裏山に咲く山桜。子どもの頃、満開のそれに登ると、なんとも言えない澄んだ良い匂いに包まれた。みのりが側にくると、いつもその匂いを思い出す。
古庄はそんなことを思いながら、遼太郎ほど軽快にはいかないが、一歩ずつ進んでいく。
三人とも黙って山を下りることに集中する。静かすぎる夕闇の迫る木立の中で、古庄と遼太郎の呼吸の音だけが響く。
しばらくして、みのりが鼻を啜る音が重なり、古庄の耳に聞こえてくる。
「……ねえさん?どうした?」
どこか痛いところでもあるのかと、古庄が訊いてみる。
すると、声をかけられたみのりは、我慢ができなくなって、「うっうっ…」と泣き声を立て始めた。
「え?!……ねえさん?」
何か大変なことが起こっているのかもしれない。そう思った古庄は、もう一度問いかけてみた。
「古庄先生、ごめんなさい。……私が遺跡に行きたいなんて、言い出すから、……こんな大変な目に遭ってしまって……、本当にごめんなさい」