アイドルたちに溺愛されて可愛がられて



「すみません、体操着貸してもらえませんか?」

「体操着ね、いいわよ。忘れちゃった?」

「……はい」



保健室の先生は優しくてすぐに体操着を貸してくれた。

急いで着替えていかないと。

授業に遅刻してしまう。

教室に戻る時間もないと判断した私は、保健室で着替えさせてもらうことにした。



「ありがとうございました」



ぺこりと先生に頭を下げて保健室を出る。

体育館は保健室と同じ1階だからすぐだ。

本当は走ってはいけない廊下を走って、なんとか授業開始時間前に間に合うことができた。



「愛華ー!こっちこっち!」

「はぁっ、はぁっ、間に合ってよかった」



体操館では、心桜が手を振って待ってくれていた。

それだけで安心する。

心桜の元へと向かう途中、ボソッとつぶやく声が聞こえた。



「間に合ったのかよ」

「チッ」



それは紛れもなく私に向けられたものだった。

涙をこらえて、グッと唇を噛む。



「愛華、大丈夫だったー?」

「うん、なんとか」



心桜の前では、それを隠すようにニッと笑った。




< 78 / 122 >

この作品をシェア

pagetop