悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!
「ジュリアン様……ごめんなさい……」
「君の口から謝罪なんて聞きたくはないよ」

 私の言葉を誤解したみたいで、ジュリアン様は尖った目を向ける。唇が下りてきて、またしゃべられなくされそうで、慌てて告げる。

「ジュリアン様、違うんです! 私があなたを好きなのは変わらないんです。説明させてください」
「………セシルのところに行け、なんて言わない?」
「それは……」

 こんな状況だというのに、ふてくされたように言うジュリアン様がかわいらしい。いつもの余裕がなくて、まるで普通の男の子みたい。
 でも、天変地異の問題は解決していないから、肯定はできない。

 ジュリアン様が「それならやっぱり……」とまた私のドレスに手を伸ばすので、「お願いです! 話を聞いてください」と言うと、彼はしぶしぶ身を起こした。
 「僕は君のお願いには弱いんだ」と。
 私は急いで乱れた服を直すと、ジュリアン様が手を引っ張って起こしてくれた。

 落ち着いてソファーに座り直すと、ジュリアン様の方を向いて、説明を始めた。

「信じてもらえるかどうかわかりませんが……」
「君が本気で言うことならなんでも信じるよ」

 いつもの癒される笑顔に戻ってジュリアン様は言った。
 全幅の信頼、全面的な肯定がその瞳にはあった。
 
(ジュリアン様……)

 胸が詰まって、思わず彼に抱きつく。
 ジュリアン様も抱き返してくれて、続きを促した。

「私はある時から人を従わせることができるようになったんです」
「君の言葉なら大概の人間が従うだろうね」
「違うんです。そうではなくて、私が命令すると、言われた人は無意識に従ってしまうんです。自分の意志とは別に」

 ジュリアン様は形のよい眉を顰めた。

「例えば、君が『跪け』と命令したら、相手は無意識に跪くってこと?」
「そうなんです。しかも、命令されたことも覚えていないので、なぜ跪いたのかもわからないんです」
「なるほど。それはすごい力だね」
「はい。その力が発現したのは10歳の時でした。そして、私はあなたに『好きになって』と言ってしまったんです……」

 申し訳なくて恥ずかしくて、私は俯いた。
 ジュリアン様がどんな表情をしているのか見るのが怖い。

「あぁ、だから、君は僕の言葉を信じてくれなかったんだね」
「ごめんなさい……」

 ジュリアン様は私の頬を持ち、顔を上げさせた。
 そこには変わらない甘い甘い水色の瞳があった。

「でも、僕は操られてなどいないよ? もともと王家の人間は魔力が強くて、暗示にかからない。だからかな? 君のかわいいお願いはみんな覚えている。『嫌いにならないで』『ぎゅうして』『好きになって』……全部頼まれるまでもなく、僕がしたいことだったからそうした」

 私は真っ赤になった。
 逆に全部覚えられているなんて恥ずかしくてたまらない。幼い私はなんてこと言っちゃってたのかしら……。

「ルビー……ルビアナ、好きだよ。愛してる。確か『愛してるって言って』というお願いはなかったよね?」

 いたずらっぽく微笑んで、ジュリアン様は最高の言葉をくれる。
 すんなりとそれが胸に入ってきて心に沁み渡る。
 瞼が熱い。
 ジュリアン様の本気が伝わったから。
 本当にジュリアン様が私を愛しているのがわかって、歓喜が身体中を駆け巡る。

「私も愛しています、ジュリアン様」

 そう言うと、優しいキスが降ってきた。
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