悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!
他の人にも試してみた結果、なぜか私は人を操ることができるようになっているのがわかった。
私が命令すると、相手は無条件に従ってしまうのだ。
しかも、無意識なので、私が命令したことも覚えていないらしい。
なんてチートな能力。
転生したボーナスなのかしら?
悪いことし放題じゃない!
とはいえ、成人した女性だったこととゲームの内容以外はサッパリ思い出せない。だからといって、成人の頭脳があるかというとそうでもなく、十歳の感覚のままだった私は、大したことも思いつかず、有効利用することはなかった。
ひとつのこと以外には。
この力のことを便宜的に催眠術と名づけた。
前世の言葉っぽい。
催眠術ならいつかは解けるのかもしれないけど、私の力は何年経っても解ける気配はなかった。
実際――。
「僕のルビーは最近憂鬱そうだね。なにかあった?」
食堂で腰かけていると、パァッと光が射し込んだ気がした。
それほど煌煌しい存在が声をかけてきて、十八歳になった私の思考を破った。
発光しているようなフワフワのプラチナブロンドに、春の陽射しのように柔らかな空色の瞳の美しい人がふんわりと微笑む。
ジュリアン様だ。
彼を見るだけで、私の胸はときめいた。
前世を思い出した頃、ちょうどジュリアン王子と婚約したばかりだった。
私は、妃候補の条件にぴったり当てはまってたらしい。
公爵令嬢という身分も、政治的にも中道派なコンスタンツ家というのも歓迎された。同じ歳のジュリアン様とも交流があって、仲も悪くない。
ジュリアン様の十歳の誕生日に私たちの婚約が発表された。
それからは婚約者として定期的にお会いすることになった。
その頃のジュリアン様は控えめに言って天使、リアルに言うと、誰もが見惚れるほど光り輝くエンジェル。
穏やかで優しくって、きらめく容姿のジュリアン様を好きにならないはずはなく、婚約が決まって、私は有頂天になった。
そんな時だった。
前世の記憶がよみがえったのは。
悪役令嬢の記憶に不安になっていた幼い私は、会うたびにジュリアン様にむちゃなお願い……というか催眠術をかけていた。
「お願い……私のこと嫌いにならないで!」
「うん、ならないよ」
「ぎゅうして!」
「うん、喜んで」
「私のこと、好きになって!」
「うん、好きだよ」
私が催眠術を使うたびに、ジュリアン様は一瞬驚いた表情の後、蕩けるように甘い天使の微笑みで、私の要求に従ってくれた。
罪悪感はあったものの、幸せだった。
そして、『好きになって』という催眠術は八年経っても解けておらず、王立学校に入学しても、こうしてジュリアン様は私を好きでいてくれている。
毎日食堂で一緒にランチを取り、休みはスケジュールが許す限り一緒にいて、溺愛されていると言われるくらいに。
私が命令すると、相手は無条件に従ってしまうのだ。
しかも、無意識なので、私が命令したことも覚えていないらしい。
なんてチートな能力。
転生したボーナスなのかしら?
悪いことし放題じゃない!
とはいえ、成人した女性だったこととゲームの内容以外はサッパリ思い出せない。だからといって、成人の頭脳があるかというとそうでもなく、十歳の感覚のままだった私は、大したことも思いつかず、有効利用することはなかった。
ひとつのこと以外には。
この力のことを便宜的に催眠術と名づけた。
前世の言葉っぽい。
催眠術ならいつかは解けるのかもしれないけど、私の力は何年経っても解ける気配はなかった。
実際――。
「僕のルビーは最近憂鬱そうだね。なにかあった?」
食堂で腰かけていると、パァッと光が射し込んだ気がした。
それほど煌煌しい存在が声をかけてきて、十八歳になった私の思考を破った。
発光しているようなフワフワのプラチナブロンドに、春の陽射しのように柔らかな空色の瞳の美しい人がふんわりと微笑む。
ジュリアン様だ。
彼を見るだけで、私の胸はときめいた。
前世を思い出した頃、ちょうどジュリアン王子と婚約したばかりだった。
私は、妃候補の条件にぴったり当てはまってたらしい。
公爵令嬢という身分も、政治的にも中道派なコンスタンツ家というのも歓迎された。同じ歳のジュリアン様とも交流があって、仲も悪くない。
ジュリアン様の十歳の誕生日に私たちの婚約が発表された。
それからは婚約者として定期的にお会いすることになった。
その頃のジュリアン様は控えめに言って天使、リアルに言うと、誰もが見惚れるほど光り輝くエンジェル。
穏やかで優しくって、きらめく容姿のジュリアン様を好きにならないはずはなく、婚約が決まって、私は有頂天になった。
そんな時だった。
前世の記憶がよみがえったのは。
悪役令嬢の記憶に不安になっていた幼い私は、会うたびにジュリアン様にむちゃなお願い……というか催眠術をかけていた。
「お願い……私のこと嫌いにならないで!」
「うん、ならないよ」
「ぎゅうして!」
「うん、喜んで」
「私のこと、好きになって!」
「うん、好きだよ」
私が催眠術を使うたびに、ジュリアン様は一瞬驚いた表情の後、蕩けるように甘い天使の微笑みで、私の要求に従ってくれた。
罪悪感はあったものの、幸せだった。
そして、『好きになって』という催眠術は八年経っても解けておらず、王立学校に入学しても、こうしてジュリアン様は私を好きでいてくれている。
毎日食堂で一緒にランチを取り、休みはスケジュールが許す限り一緒にいて、溺愛されていると言われるくらいに。