悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!
 ジュリアン様の背後には近衛騎士の護衛が付き、宰相の息子のリカルド様、騎士団長の息子のダンガルド様、今日は弟のジョエルまでいた。つまり、ゲームの主要な攻略対象が一同に会していた。
 見目麗しい方々が勢揃いしているけど、この一年ほとんど同じメンバーでお昼を取っているので、さすがに皆も見慣れて、キャーキャー言う人はいない。
 このきらびやかな一角に近寄る人もいないけどね。

 本来なら主人公のセシルを取り巻いて、私を断罪する人達なんだけど、私だって、うかうかと断罪ルートに進まないように努力した。
 というか、催眠術の効果が怖くて、物腰がとても丁寧になった。
 だって、ちょっとでも命令っぽくなったら従われちゃうんだもん。
 ささやかな冗談でさえも。
 恐怖よね。

 私は前世を思い出してから、細心の注意を払って、行動してきた。
 そのおかげで、高貴な生まれなのに驕ることなく常に穏やかで優しいと評価は上々で、攻略対象とも友好な関係を築けている。

 でも、ジュリアン様への催眠術は取り消すことはできなかった。
 だって、だって、好きなんだもん。
 こんなに優しく甘く好きだと言ってくれている人を、自分から手放すことなんてできない。
 催眠術のおかげだと思うと、ときどき虚しさを感じるけどね。



 そんなジュリアン様に挨拶をして、なんでもないと首を振る。
 そして、まだ入学前の弟を見た。

「ジョエル、なぜあなたがここにいるの?」
「入学の手続きで確認事項があって、視察ついでに来たんだ。そしたら、ちょうどジュリアン様と会って、連れてきてもらったの。姉上に会いたかったし」
「そうだったの。って、毎日家で会ってるのに?」
「学校で会うのは違うでしょ? どんな姉上だって見たいんだ。これからは学校でも一緒にいられるとは、なんて幸せなんだ!」
「そう……」

 ゲームでは悪役令嬢の姉を嫌い、陥れる側に回るはずのジョエルだったけど、彼はなぜか重度のシスコンに成長していた。
 幼いジョエルがかわいくて構い倒したのがいけなかったのかなぁ。
 ジョエルを知っているジュリアン様と私は、いつものかという反応だったけど、周りはドン引きだった。


 もうすぐ新学期。
 ジョエルが入学してくるのと一緒に聖女のセシルも3年生に編入してくる。
 ゲームの始まりだ。
 彼女を見たとき、この面子の反応はどうなんだろう。
 特に、ジュリアン様の反応が怖い。
 私なんか忘れて、セシルに夢中になっちゃうのかな。
 ……あり得る。

 セシルは、綺麗なピンク色の髪の毛に、クリクリのチョコレートブラウンの瞳のとてもかわいらしい女の子だ。
 スチルでは。
 心持ちも美しく誰もに愛される明るい性格をしているらしい。
 ゲームの設定では。

 私だって、美人と言われるけど、彼女のように手を差し伸べたくなる可憐さはない。

 新学期が憂鬱だなぁ。
 ランチのサンドイッチを食べながら、そっとため息をついた。



 
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