悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!
「ルビアナ様がジュリアン様とラブラブで驚きました」

 食後にお手洗いに行きながら、セシルが言った。ジュリアン様を思い出しているのか、うっとりしている。

「あんな素敵な方に溺愛されているなんて、うらやましいです。でも、ルビアナ様も綺麗で優しいからお似合いですね」

 私はなんとも言えず、照れ笑いをこぼす。
 こんな直球で褒めてくれる人はジュリアン様以外にこれまでいなかった。
 そういえば、今までこういう風に女の子とべったり一緒に行動することもなかったわね。
 私の公爵令嬢という高い身分とジュリアン様筆頭にきらびやかな人達が周りを取り囲んでいたから、クラスメートはみんな丁寧だけど、一歩退いて私に接していた。
 
(今気づいたけど、私って友達いない……? うそ……)

「そういえば、ジュリアン様の後ろに立っていた人は誰なんですか? いかついお顔の」
「あぁ、あれは近衛騎士よ。フランかペイルのどちらかが常に誰か一人がついて、ジュリアン様をお守りしているんです」
「そうなんですね。王族ですもんね」

 鋭い眼つきで明らかに雰囲気が違うから違和感を覚えたらしい。
 私たちは、小さい頃から見ているから空気のような存在になっていたけど。
 幼い頃はよく遊んでもらった頼れるお兄さんたちって感じだ。

「あ、でも、さっきいたフランは眼つきは悪いけど、話すと優しいし頼りになるのよ?」
「フラン様と言うのですね」
「小さい頃はジュリアン様と一緒に追いかけっことか高い高いとかしてよく遊んでくれたの。あまりに私を高くまで飛ばして、青くなったペイルに叱られていたわ」

 私が怖くないんだよと、フランのエピソードをいくつか話すと、セシルはふふっと笑った。
 楽しそうに聞いてくれるので、ついついしゃべりすぎてしまう。

「ところで、フルーツタルト、ものすごくおいしかったです。あんなのが毎日食べられるなんて、幸せですね」

 言葉の通り、幸せそうな顔で、セシルが微笑んだ。
 キラキラなヒロインオーラが漂う。

(かわいい……。この子はなんてかわいく笑うのかしら)

 複雑な気分を隠して、私は話を続けた。

「そうでしょ? うちにもパティシエがいるけど、フルーツタルトはここのが一番おいしいわ。あとはたまに出てくるチーズシフォンケーキもおいしいのよ」
「わぁ、楽しみ! ルビアナ様も甘いものがお好きなんですね」
「そうなの。栄養が偏らないなら、毎食ケーキでいいぐらい」
「ふふ、それはかなりの甘党ですね。でも、気持ちはわかるかも」

 同意してくれたセシルに、食い気味に言って、身を乗り出す。

「わかってくれる? うれしい! 今まで賛同してくれる人がいなかったの」
「私はそれがチョコレートですけどね。チョコが一番好きなんです。めったに食べられないですけど」
「あら、それじゃあ、授業が終わったらサロンに招待するわ。ちょうど街で評判のチョコレートを入手したから、一緒に食べましょ?」
「いいんですか?」
「もちろん」
「うれしいです!」

 甘いものを食べて、『おいしー!』って盛り上がりたかった私は、唐突にセシルをサロンに誘ってしまった。
 男性陣は甘いものを食べなくはないけど、こんなふうにテンションが上がるほどでなく、もの足りなかったのだ。
 憧れの女子トークができるチャンスだわ!
 私はワクワクした。


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