悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!
私の決断
ある日、選択教科が終わって、サロンへ向かっていると、めずらしくジュリアン様とセシルが廊下で立ち話をしているのを目にした。
二人とも楽しそうで、なんとなく声をかけられなかった。
しかも、優しげな外見のジュリアン様に、かわいらしいセシルはとてもお似合いで、一枚の絵のよう。
本来ならこの二人が恋人同士だったんだから、当たり前よね……。
傾いた陽の光が射し込んでスポットライトのように二人を照らしていた。ジュリアン様の髪の毛がキラリと輝く。
(あぁ、こんなスチルあったわ……)
ゲームのワンシーンを思い出す。
恋人になる寸前の二人。
そこに私の入る隙はなくて。
胸がツキンと痛んだ。
「それじゃあ、ジュリアン様、お願いしましたよ?」
「あぁ、わかった。約束するよ」
「楽しみにしています」
「うん、じゃあね」
セシルがかわいらしく頬を染めている。
(なにか約束をしたんだわ。なんだろう……)
嫌な想像しか浮かんでこない。
とうとうジュリアン様がセシルを好きになる日が来たんだわ。
本当の気持ちは、催眠術で無理やり作った感情なんか簡単に覆してしまうんだろうな。
悲しい気持ちで二人の後ろ姿を見送る。
その時――。
グラグラッ
地面が突き上げるように激しく揺れた。
壁に手をついて、身体を支える。
地震……?
こんな大きな地震は、この世界では初めてかも。
揺れはすぐ収まったけど、私の心は乱れたままだった。
(もしかして、これが天変地異の始まりだったらどうしよう?)
そう思って、胸のざわつきが治まらない。
ゲームではこの国が大災害に遭っていたところをセシルが聖女の力で救う。でも、それにはセシルが誰かと恋人にならないといけない。
そして、今、セシルが見ているのはジュリアン様……。
あぁ、だから、ジュリアン様も正気に戻って、セシルのことが気になり始めたのかしら。
すべては元のストーリー通りに戻っていくのかもしれない。
「あぁ、ここにいたんだ。探したよ、ルビー」
私がうなだれていると、ジュリアン様が私を見つけて、抱きしめた。
「さっきの地震、大丈夫だった? 怖くなかった?」
優しい空色の瞳が私を見つめる。
いつもと変わらない愛情あふれる眼差しに、目が潤んでしまう。
セシルに心を奪われたんじゃなかったの?
「怖かったんだね。かわいそうに。もう大丈夫だよ?」
頭をなでて、抱きしめて、頬を寄せる。いつものように。
本当になにも変わっていないジュリアン様に私はしがみついて、涙をこぼした。
怖くて泣いているのだと誤解してくれているのを幸いに。
ジュリアン様が唇で涙の跡を辿った。
びっくりして、涙が止まる。
「ふふ、泣いている君も、驚いている君もかわいい。でも、僕を見て笑っている君が一番かわいいな」
頬に口づけながら、そんなことを言われて、私は真っ赤になった。
「ルビー、好きだよ」
ふいにジュリアン様が言った。
今一番聞きたかった言葉。
なんでわかったの?
せっかく止まった涙がまたあふれてくる。
私はジュリアン様の胸に顔をうずめて、「私もです」とつぶやいた。
うれしいけど、罪悪感が募った。
二人とも楽しそうで、なんとなく声をかけられなかった。
しかも、優しげな外見のジュリアン様に、かわいらしいセシルはとてもお似合いで、一枚の絵のよう。
本来ならこの二人が恋人同士だったんだから、当たり前よね……。
傾いた陽の光が射し込んでスポットライトのように二人を照らしていた。ジュリアン様の髪の毛がキラリと輝く。
(あぁ、こんなスチルあったわ……)
ゲームのワンシーンを思い出す。
恋人になる寸前の二人。
そこに私の入る隙はなくて。
胸がツキンと痛んだ。
「それじゃあ、ジュリアン様、お願いしましたよ?」
「あぁ、わかった。約束するよ」
「楽しみにしています」
「うん、じゃあね」
セシルがかわいらしく頬を染めている。
(なにか約束をしたんだわ。なんだろう……)
嫌な想像しか浮かんでこない。
とうとうジュリアン様がセシルを好きになる日が来たんだわ。
本当の気持ちは、催眠術で無理やり作った感情なんか簡単に覆してしまうんだろうな。
悲しい気持ちで二人の後ろ姿を見送る。
その時――。
グラグラッ
地面が突き上げるように激しく揺れた。
壁に手をついて、身体を支える。
地震……?
こんな大きな地震は、この世界では初めてかも。
揺れはすぐ収まったけど、私の心は乱れたままだった。
(もしかして、これが天変地異の始まりだったらどうしよう?)
そう思って、胸のざわつきが治まらない。
ゲームではこの国が大災害に遭っていたところをセシルが聖女の力で救う。でも、それにはセシルが誰かと恋人にならないといけない。
そして、今、セシルが見ているのはジュリアン様……。
あぁ、だから、ジュリアン様も正気に戻って、セシルのことが気になり始めたのかしら。
すべては元のストーリー通りに戻っていくのかもしれない。
「あぁ、ここにいたんだ。探したよ、ルビー」
私がうなだれていると、ジュリアン様が私を見つけて、抱きしめた。
「さっきの地震、大丈夫だった? 怖くなかった?」
優しい空色の瞳が私を見つめる。
いつもと変わらない愛情あふれる眼差しに、目が潤んでしまう。
セシルに心を奪われたんじゃなかったの?
「怖かったんだね。かわいそうに。もう大丈夫だよ?」
頭をなでて、抱きしめて、頬を寄せる。いつものように。
本当になにも変わっていないジュリアン様に私はしがみついて、涙をこぼした。
怖くて泣いているのだと誤解してくれているのを幸いに。
ジュリアン様が唇で涙の跡を辿った。
びっくりして、涙が止まる。
「ふふ、泣いている君も、驚いている君もかわいい。でも、僕を見て笑っている君が一番かわいいな」
頬に口づけながら、そんなことを言われて、私は真っ赤になった。
「ルビー、好きだよ」
ふいにジュリアン様が言った。
今一番聞きたかった言葉。
なんでわかったの?
せっかく止まった涙がまたあふれてくる。
私はジュリアン様の胸に顔をうずめて、「私もです」とつぶやいた。
うれしいけど、罪悪感が募った。