悪役令嬢にそんなチートな能力を与えてはいけません!
 それからしばらく経った放課後、クラスメート達と文化祭の準備のことを話していた。
 セシルと一緒に実行委員になったのだ。
 学校生活3年目にして初めて、みんなでワイワイなにかをするという楽しみを味わっている。
 すると、セシル以外のクラスメートがザザッと退いた。

「僕のかわいいルビーをそろそろ返してくれる?」

 涼やかな声とともに、後ろから腰を引き寄せられる。
 ジュリアン様だ。
 背中が引き締まった身体にひっついて、頬が熱を持った。
 ふと見ると、セシルも真っ赤になっている。

「今日は王宮に来てくれる約束でしょ?」

 ジュリアン様が耳許でささやく。
 ぞくっとして、首をすくめる。
 ちょっと拗ねているような声だ。
 最近、こうしてクラスメートとおしゃべりしたり、セシルと週末にお買い物に出かけたりしていることが増えて、焼きもちを焼いているらしい。と本人が言っていた。

「はい、もちろん、お供します」

 こないだはセシルが好きになったのかもと不安になったけど、ジュリアン様は変わらず私を見ていてくれる。
 むしろ、前よりスキンシップが増えたような…?
 セシルに対する距離は変わらない。
 安堵するとともに、別の不安が増した。

 グラッ、グラグラッ

「きゃっ」
「地震?」
「また? 最近多くない?」

 クラスメートが騒いだ。
 ジュリアン様が守るように私を抱きしめてくれる。

 そう、最近、地震が多い。だんだん頻度が上がっている気がする。
 しかも、夏なのに雨続きで気温が上がらず、異常気象が続いていた。

 『天変地異に見舞われた国を救う』のが聖女の役目。
 実際、セシルはこのところ頻繁に教会へお祈りを捧げに行っていた。でも、成果ははかばかしくないようで、たまにため息をついていた。

 『聖女は愛する人を得て初めて真の力に目覚め、国を救う』

 ゲームの内容が頭をよぎる。
 この状況は私のせいかも……。
 いいえ、『かも』じゃないわね、私のせい。私がセシルとジュリアン様の恋路を邪魔しているから、セシルは真の力に目覚められず、天変地異も抑えることができないのよね。

(ごめんなさい……)

 ずるい考えで、他の攻略対象にセシルが恋したらいいんじゃないかと、リカルドやダンガルドを秘かに応援してみたけど、セシルが見つめるのはやっぱりジュリアン様の方。
 この頃はなんでも話せる仲になっているのに、このことだけは怖くてセシルに聞けないでいる。

 ――ジュリアン様が好きなの?

 聞いてもセシルは否定するだろうけど、熱っぽい瞳が物語っている。

 このままでは作物も育たず、飢饉が起こるかもしれない。地震だって、すでに大きなものが起きた地域では建物が崩壊して、壊滅的な被害が出ている。

 
(潮時ね……)

 もうこれ以上は引き延ばせない。
 今夜、ジュリアン様の催眠術を解こう。きっとそれがジュリアン様の感情を縛っているんだ。だから、ジュリアン様はセシルに惹かれないんだわ。
 私は十分ジュリアン様に愛された。偽りの愛だったけど。

 ごめんなさい、ジュリアン様。
 最後に思い出をもらっていいかしら?
 終わったら記憶を消すから、お願い……。

 私はそんなことを考えながら、腰に回された腕にそっと手を添えた。
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