Cherry Blossoms〜いのちのかたち〜
そう言い、座席から立ち上がったのは、太一とその母親に散々責められていた妊婦だった。大きなお腹を守るように自身の手を回し、ヴェノムを睨み付ける。だが、その目に恐怖が浮かんでいることを、桜士は見逃さなかった。

「お前、俺に逆らう気か!?」

ヴェノムが怒鳴り付け、妊婦はびくりと肩を大きく震わせ、目を強く閉じる。自分の妻がバスジャック犯にいつ刺されてもおかしくない状況だというのに、太一は真っ青な顔で震えたままヴェノムのことも、妊婦のことも見ようとしない。

(バスジャックが起きる前、あんなに自分の母親と自分の妻を責めていたというのに、情けない)

桜士がそう思いつつ、妊婦を守らなくてはと腰を座席から浮かそうとすると、「あの!」と後ろから鈴を転がしたような綺麗な声が響く。

「私には、春に高校生になる弟が二人います。あなたたちも、弟がと同じくらいの年頃に見えます。どうしてこんなことをしているのか、教えてくれませんか?」
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