Cherry Blossoms〜いのちのかたち〜
婚約者となった斑目純平(まだらめじゅんぺい)とは、会って数日後には婚姻届を役所に提出し、夫婦となった。だが、純平も藍のことを愛しているわけではない。文雄に似て、妻は世間体のために必要と考える人間だった。

「まあ、好きという気持ちは一ミリもありませんが、とりあえず後継者を作るために行為はしておきましょうか。三十過ぎると羊水って腐るんでしょ?」

羊水が三十代になると腐るなど、迷信にも程がある。以前の藍ならば、産婦人科医として純平を怒鳴り付けていただろう。だが、そんな気力はもう、藍には残っていなかった。

愛が一ミリもない行為が繰り返され、家事を機械のように淡々とこなす日々は、一日が長く退屈だった。そんな藍に異変が訪れたのは、いつものように洗い物をしていた時だった。

「うっ……!」

突然頭が痛み、手に力が入らなくなって手から洗っている途中のお皿が滑り落ちた。目の前がぼやけ、訳がわからなくなる。純平と結婚をしてから、こうして謎の頭痛が起こることが増えた。
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