眠り姫と生贄と命の天秤

誰かの命を犠牲にしないと成り立たないなら

 コルクのふたがしっかり閉まっていることを確認して、食材の革袋と水袋を出した。

 毒のない木だということを確認して、近くの枝を折って水ですすぐ。火を挟んでキトエと向かい合わせに座る。

「今日の糧に感謝を」

 短く唱えてから、硬めのチーズを枝に刺して、あぶって食べた。

「おいしいね」

 笑いかけると、キトエが微笑み返してくれる。残念ながらふたりとも料理ができないので、毎日火であぶって食べるくらいしかできない。けれど食事が質素でも、歩きづめで疲れていても、安心して眠れなくても、追われているという恐怖が常にあっても、リコは幸せだった。

 水袋に移した久しぶりのヤギの乳を、味わって飲む。飲み水もリコの魔法で出せるので、逃亡旅としてはかなり楽をしていると思うのだが、たまの水以外の飲み物はとてもありがたい。

 切ったズッキーニと、モロヘイヤとパンを軽くあぶる。火に当てていた羊の干し肉とともに、パンに挟んで食べた。野菜も保存がきかないので、久しぶりのみずみずしさが体に染み入る。干し肉の味がかむたびにあふれ出してきて、同時に押しこめていたものがにじみ出してきた。

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