眠り姫と生贄と命の天秤

前かがみになるときは気をつけてほしい

 作り笑いではなく、炎の向こうのキトエへ、微笑んだ。

「キトエにはうそつかないようにする。でもキトエももっと自分を一番に考えていいんだよ? わたしのために怒ってくれるのは嬉しいけど。さっきの人にもすごく怒ってくれたし」

 干し肉の屋台にいた、赤い髪の男性のことだ。するとキトエはふだん見たことがないくらい、嫌悪に顔を歪めた。

「ああいう奴こそ生贄になればいい」

 たしかに真実とはいえリコも深く心をえぐられたので、相容れないとは思うのだが。

「最初、そんなにすごく見られてた? 全然気付かなかった」

 一番最初から、『じろじろ見るな』とキトエは不機嫌そうにリコを男性からかばったのだ。ふだん怒ることのないキトエなので、その時点からとても珍しかった。もしかして嫉妬してくれたのだろうか。そうだったら嬉しいな、とよこしまな考えがよぎってしまう。

 キトエは嫌悪しかなかった表情に、にわかに気まずいものを混ぜた。

「あ、あれは……その」

「なあに?」

 嫉妬なのかどうか知りたくて、リコは火のほうへ前のめりになってしまう。

「何か嫌だったの?」

「嫌というか、嫌といえば、まあ」

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