眠り姫と生贄と命の天秤
「キ、キトエの見間違いじゃないの?」

「見間違いじゃない。見てた。絶対に」

 キトエの声があまりにも低くて見てみれば、嫌悪を通りこして憎悪をたたえた冷えた顔をしていた。

 ということは、今までほかの男性や、そばにいたキトエにも見えてしまっていたということだろうか。ほかの男性に対しては今後絶対に気を付ける。キトエは、それ以上全部見られてしまっているので、いいといえばいい、のだが。

(いやでもやっぱりよくない! 恥ずかしい!)

「こ、今後は気を付ける……」

 胸元から手を離せないまま、何とか声を出した。キトエが小さく返事をしてくれる。いたたまれない気持ちのまま、枝を燃やしていく炎を見つめる。

「あ、そ、そういえば今夜の見張りはわたしが多めにやるから」

 話を変えたくて切り出した。夜は交代で寝て見張りをしているのだ。

 キトエは居心地の悪そうな表情を引っこめて、真剣に困った顔をする。

「疲れてるだろ。俺が多めで」

「だめ、最近ずっと多めに起きてるでしょ。倒れちゃう」

「これくらい平気だ」

「だめ」

 リコは立ち上がって火を回りこんで、キトエの隣に座った。

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