眠り姫と生贄と命の天秤
 夜は追手や何があるか分からないので、交代で起きているようにしているのだが、リコは気付いたら意識が落ちている、ということもひんぱんにあった。

 キトエを見ると、身じろぎもせず眠っている。当たり前だが、疲れているのだろう。月が空の右側へ来たら交代だから絶対起こすようにと言われていたが、いつもキトエのほうが多く起きているので、リコが一晩中起きていても構わないと思っていた。たき火のそばで熱している、毒虫よけの草の柑橘に似た香りが漂っている。

 ふたつに割れているとはいえ、月は満月と同じで明るい。この国で生贄を捧げるのは、月がふたつに割れる夜と決まっている。生贄の城から逃げ延びて、初めて訪れる割れた月の夜だった。

『おとなしく死んでくれればみんな幸せになれたのに』

 自分が決めたことでも、キトエに気持ちを吐き出しても、分かっていても、痛かった。

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